7. 塵と屑 7
――昔昔、一人の少女が居た。少女は一人ぼっちでいつも寂しかった。少女は、毎晩のように星へ語りかけた。少女の友達は小さく輝く星だったからだ。
ある日、少女の目の前に眩いばかりに輝きを纏う少年が現れた。少年は少女の事が大好きだった。少女もまた少年の事が大好きだった。しかし少女が大人になるにつれ、少年の存在は必要ではなくなっていった。その夜、少女は夜に向かって飛んでいく鹿の姿を見た。その目は少年の目にそっくりだった。鹿は星の形と変わり空を飛び駆ける。あの少年は、いつも眺めていた星だったのだと少女は気づいた。しかしもうその頃には、少年は己の体を燃やして死んでしまった。
――ねぇ、星も自殺するの?
――それはね、星子……。
暗闇が精神と肉体を蝕む。全身が冷たく感じた。意識はどこか遠くへと離れたかのようだ。
――星子、星子。大丈夫かい?
ディーアは声をかけてくるが、星子は返す気力もなかった。これから自分は売られてしまうのだ。しかも信じていたはずの友の裏切りによって。
――何か抜け出す方法を考えよう。僕もアデスの奴に捕えられたんだ。
「もう、いいわよ」
星子は力無く言った。
「どうせ、何したって無駄なの。私なんかに何が出来るの?……馬鹿だよね、本当に友達だと思ってたのに」
石で出来たコンクリートに、一段濃い染みが淡く広がっていく。
――生きている限り、僕らは何か出来るはずだ。
「死んでも構わない」
星子はまた泣き出した。考えるのも疲れ切ってしまった。涙を流す事しか出来ない自分にも苛苛する。心臓の奥の奥がぎゅっと締め付けられているようだ。
――僕は星子の味方だよ。僕が星子を守る。約束する。
ディーアのその暖かい声も、今は余計に星子の心を苦しめるだけに過ぎなかった。
「ごめん、しばらく一人にして」
――分かった。
ディーアの声がしなくなると、星子の身から魂が抜けたそんな感覚になった。暗くなった夜道に取り残される幼い子供のように淋しく、もう二度と自分の足で歩き出せない感覚がした。自分が誰なのかも分からなくなり、今すぐ皮膚を全て引き裂きたい衝動にかられる。声を上げて狂ったように泣いた。泣いても泣いても更に孤独になるだけだった。目線を上の方へと向ける。くすんだ灰色の壁に小さな小窓があった。濃い紺を水で薄めて伸ばしたかのようなそんな空が此方を覗いている。星々は点々と輝いている。それを眺めていると少しだけ心が落ち着く気がした。
「ディーア……ごめんなさい」
そう呟いた途端、小さく生暖かい何かが胸の中を灯る。
――星子。僕は君の友達にはなれない。けれど僕は君にとって友達以上の存在になれる。
「うん、うん。よく分からないけど、分かってる」
――昴とアデスは許さなくたっていい。僕がついている。いいかい、何をされても精神は強く持たなくちゃいけないよ。星子、君の精神の強さが鍵なんだ。
「でも、怖いよ」
――闇市場の連中は、君の心の弱さをつけ狙うはずさ。精神を弱らせてから、飼い慣らそうとしているんだ。僕は君の精神について行くしかないからね。
「私の精神……」
――ああ、君は弱くなんかない。きちんと嫌な事を嫌って言えるはずだよ。
「私にできるかな」
――僕と一緒ならね。
星子の心には徐々に勇気が湧いてきていた。もしかしたら助かるのではないか。そんな些細な希望だが、確かに支えとなる希望を胸に抱くと、瞼を閉じて頷いた。
「ありがとう、ディーア。いつも傍にいてくれて」
――礼なんていらないよ。当然の事をしたまでさ。
ディーアの声が最後に届くと、星子は少し安心して眠りについた。それから浅く眠ってはまた起きてを繰り返し、夜が薄まる時刻になる頃合いからはずっと起きていた。不安になればすぐにディーアと言葉を繋げた。精神を強く持たなくては。弱気になってはいけない。何度も自分に言い聞かせる。夜の名残を残した朝に、牢獄の扉が開かれた。目の前には昴が立っていた。
「星子ちゃん。出かけましょう」




