2.自殺
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星子は考えた。生まれてこの方、幸せな事などあったのだろうか?それがもしも誰かによってイエスと答えられたとしても、今や自分の意思は固く、容易に頷く事は出来ない。例えばどうしようもなく激しい流水に溺れてもがいても、その川が深い孤独の森の奥へ流れる川だとしたら、叫ぼうが、助けを呼ぼうが無駄で、自分が勝手に溺れていくのを世間様は誰も気づかない。
昨日見た夢は綺麗だった。美しい死んだ星達の中で、確かあの人の名前は……忘れてしまったが、とにかくあの人と口付けを交わした。あの人は切なそうな顔で名前を呼び、星の誕生と死を一瞬で再現してしまった。けれど、その後はまた星の一生のそれと同じように、星子の前から姿を消した。
あれが現実なのか夢であるのか、今になってはどうでもいい。星子の体はただの夢袋で、目に見える空や建物といった景色は全て作り物だ。頬に吹いてくれる秋風の匂いや、感触さえも、作り物だ。
星子はもう自分に問いかけるのを止めた。いくら問いかけても無駄だと悟った。答えは一つに行き着くのだ。死んだら全てが丸く収まる。
こんな日に限って、青空はいつもよりも青く澄んでいるなあ。そう思ったついでに欠伸が出てきた事に気づいた。どうやら生き物としての機能は、どんな状況でも失われないらしい。だから何だと言われればそれまでだけれど。とにかく星子は踏切警報が鳴って、降りてきた黄色と黒に頭を下げて線路の真ん中へ立った。
急激に心臓は早鐘を打ち、ガチガチと歯が鳴る。生への執着心が突然芽生え、逃げ出したい衝動にかられて足はすくんだ。カンカンカンカン。鼓膜を直接叩いているかのような音に脳が狂う。星子の両目からは涙が流れていた。
死ぬ、死ぬんだ……!私はこれから死ぬんだ!ダメ、今ならまだ間に合う。逃げるの、星子。でも、生きたって何になるの?お母さん、私を生んで笑った事があった?……誰か、私、生きたいよ。
お願いだから、生きていいって、言って――。
電車は星子の体を引き裂いた。胴から離れた頭で最後に、宇宙の星に願った。