6.塵と屑 6
何度も呼びかけていると、ようやく昴の瞼がゆっくりと開いた。それを見て、星子はほっと胸を撫で下ろす。
「……良かった」
「星子、ちゃん?あれ、ここはどこ」
昴は辺りを見渡した。
「分からない。そういえばさっき、ディーアの声が……。そうだ、ディーアに話さないと!」
――星子。
「ディーア!大変なの。私、変な……変な所に捕まっちゃって。お願い、助けに来て」
――星子、その子を、昴を信用しちゃダメだ。
星子は一瞬黙って、昴の方を見た。
「え?」
「どうしたの?星子ちゃん。ディーア君とは話せた?」
――星子、昴は。
その時、部屋の向かい側の錆び付いた扉の鍵が一鳴きし、苦しげな音と共に開く。白い光から現れたのは、あの気の良さそうなここの宿の主人だった。
「手荒な真似をしてすまないね。これも商売だ。許してくれ」
主人の口から告げられたのは残酷な裏切りの言葉だった。星子は全てを察した。
「あなたが……、私達を?」
店主は細い瞳を吊り上げて醜く笑った。
「死に星とリンカーは高く売れる。特に若い女の子ならば尚更。知ってはいるだろうが、リンカーはリンク者の願いによって姿形を変える事が出来る。その特性を利用すると、色々と捗る為に欲しがる客が多いのだよ」
愉悦に歪んだ口元を見て、星子は思わず悲鳴を上げそうだった。主人が二人にそっと近づくと、星子は何とか逃げようともがきながら、昴の方を向いた。
「昴ちゃん!……逃げないと!」
しかし、昴は俯いたまま静かに動かずにいた。異変を感じ、昴の顔を伺う星子。
「昴……ちゃん?」
主人は、連なる鍵の一つを手にすると、昴の拘束具の鍵穴に嵌めて、拘束を解いた。その光景に目を見開くと、昴は赤くなった手首を擦りながら、星子の方を、いつもと変わらぬような表情で見つめた。
「ごめんね……、星子ちゃん。こうしないと、私達は生きられないの」
まだ何が起こっているのか、うまく状況を飲み込めなかった。ただ、感情の回路だけが急くように、両目が熱くなった。
「嘘……でしょ。昴ちゃん、私の事を、騙したの?」
「騙したわけじゃない。友達になれたのは嬉しかった……でも、こうするしか方法はないの。ごめんね、星子ちゃん」
昴は、悲しそうに言って出口へと進んだ。
「いつもすまんな。これが今回のお前さんの取り分だ」
主人はへらりと笑って、昴に金の入った袋を渡した。昴はそれを受け取ると、もう一度星子の顔を見て、「ごめんね」と呟いた。星子は全身が縛られるような痛みに、とうとう涙を零して、項垂れた。
「明日オークションの開催だ。それまで今晩の夜を楽しめ。人として思考が出来るのは今夜限りになるかもしれんからな」
主人はそう言い残すと、扉の向こうへ消えていった。最後に昴の背中を見た。待ってとも言う気力も起きず、光が細く吸い込まれていく様を見て、絶望に身を任せた。




