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ミステリーなんて、ファンタジーでしょ?

烏屋ちゃんとこの元の世界に近い感じの世界観



ミステリー小説なんてものが一定のリアリティを持っていたのは、今は昔。技術の発達により、犯罪それ自体も、操作も、推理なんて"不確かなもの"が入る余地はなくなった。

その原因の最たるものは、空間歪曲技術と、脳波解析システムの一般化だろう。簡単に言えば、空間転移や四次元収納によって、理論上、アリバイや怪しい人物の目撃情報を探すことに意味がなくなり、脳波解析で調査対象が実際に見たものを、他の人物が後から解析し映像として見ることができるようになった。これは、死後数時間…脳が完全に刺激への反応を失うまで使用可能である。

直接的に殺され犯人を目撃していたならば、その特定は一時間もかからない。被害者から情報を採れなくとも、確実に犯行を目撃している人物はいる。犯人自身だ。濃厚な容疑者がいれば犯行時刻の記憶を解析できれば一発だ。

といっても…迷宮入りの事件が旧時代より減った、という事はない。寧ろ、増えたのではないだろうか。実質的に、ほとんど現行犯に近い状態で捕まった犯人以外は迷宮入りだと言ってもいいかもしれない。つまり、計画犯罪だ。現場からまんまと逃げおおせた犯人は八割がた逃げ切ってしまう。

とはいえ、その逃げおおせることも、容易いことではない。現代の高度情報化社会、裏を返せば監視社会であるともいえる。大体の人間は体内に医療用ナノマシンを入れているし、個人用端末を所持している。このナノマシンは違法に改造がされていない限り、宿主に変調があればすぐ、周囲の端末を経由して現在地の通報を行う。医療施設が全国的にパンクしている、などという事態でもない限り、通報から10分もすれば医療ボットが到着することになる。事件性がある負傷の場合は周囲に空間転移装置のジャミングを行うプログラムを警察官が囮捜査などの時のために実用化させている…なんて噂もあるが、それは流石にデマだろう。

不審死が発見されれば、当然医療ボットは死亡直前の状況を解析する。死人に口なしだ。まあ、使者のプライバシーが踏みにじられるのは今に始まったことではない。旧時代だって、犯人より寧ろ、被害者や遺族のプライバシーの方が踏みにじられていただろう。

犯人が映っていればすぐ照会が行われ、出頭が命じられる。そして、同時刻の記憶解析が行われ、犯行の有無が確定される。目撃証言だって、場合によっては解析情報の提出が求められる。

迷宮入りが増えたというよりは、不確定性が排除され、真犯人の逮捕による解決と犯人特定不可能による迷宮入りの二極化が進んだというべなのかもしれない。

そもそも、現代社会にマザーコンピューターに把握されていない行動がほとんどないと言っていい。コンピューターを介せば言わずもがな。昨今はカメラアイの付いていない電子機器の方が少ない。というか、体内のナノマシンがある時点で積み、だ。

しかし、マザーは基本的に能動的な通報は行わない。連続犯であればまた別だが、それほど思いつめる人間には相応の理由がある…というわけではなく、マザーには犯人も被害者もそれ以外も、全て同価値だからである。勿論、殺人は合法ではないが、マザーはあらゆる理由で差別は行わないようプログラムされている、他者の命を脅かすのは悪いことだが、それを理由にして犯人の自由を脅かすことをしない。被害者が一人なら、等価値と処理される。複数なら、損失の方が大きいと判断される。それだけだ。

まあそういうわけで、基本的に、ミステリーというジャンルはほとんどリアリティを失っている。探偵なんて実在しているか怪しいし(いわゆる興信所みたいな仕事をしてるケースも含めて)、犯人を捜すのに必要なのは推理力よりも技術力だ。確実な証拠がなければ有罪判決は出ない。そもそも、犯人捜しが必要になるような犯罪自体、そうそう起こらない。現実と物語は違うのである。

「…おいおい、マジかよ」

瞬きしても目の前の光景は変わらない。人が一人、死んでいる。医療ボットは到着していない。周囲に他の人影はない。手元には携帯型の転移装置がある。

殺した覚えも殺すつもりもなかったが、明らかに自分が犯人としか見えない状況だ。つまり、非常に拙い。何でこうなったのかわからないのもとても拙い。少なくとも、自分がこいつに対して悪感情を持っていたことは否定できない事実だ。何らかの理由で、本当に自分が殺してしまったという可能性もゼロではない。

だが。

「こんなやつを殺した、なんて罪で捕まってたまるかよっ…」

自分は、その場から逃亡することを選んだ。






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