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第九十八話 時の魔術実践

 ワイナツムの洞窟での一件からひと月も経っただろうか。

 いつしか校庭の木の葉も色づきはじめ(異世界にも紅葉ってあるんだ!)、風に冷たさを感じることが多くなった。


「ガーリンさんおはよう!」

「おう、おっはようさん」


 わたしとセレーナは、いつもどおり校門のところでガーリンさんとあいさつを交わす。


 構内へ入ると、用務員のシュレーネンさんがほうきで石畳の床を掃いている。

 この広いのに、大変だなあ。


「おはようございます!」 

「はいはい、おはようね」


 と、またあいさつをして教室へ向かう。


「ミオン、今日はなんだかいつもより元気ね」

「うん。わかる?」


「当てましょうか。……時の魔術の実践授業があるからでしょう」

「ピンポーン! 当たり」


 そう、遅ればせながら今日はとうとう時の魔術の実践授業が始まるのだ。

 理論と座学はチンプンカンプンだったけれど、実践なら! とわたしは意気込んでいた。

 そして何より、


「新しい魔法を覚えられる!」

 

 そのことに興奮していた。




   ◆




「今日は遅延魔法の実践を行なってもらいます」


 時の魔術のユナユナ先生は、そう言った。


「遅延魔法を用いることで、食物を新鮮に保つことができたり、またその腐敗を遅らせることが可能になります」


 へえー、便利! わたしは素直に感心した。


(刺し身を食べ放題ニャ!)

 賞味期限切れのヨーグルトも食べられる!


「そして魔物の動きを遅くすることさえ……。もちろん、格の高い魔物には効きませんが――」


 先生は続けた。


「低級な魔物ならば、その運動を制限し、動作を緩慢にすることができるのです」


 へえ!! ますます覚えたい……はやくはやく!


「それでは用意してきたものを出してください」


 ユナユナ先生は懐からあるものを取り出した。

 そして手を伸ばし、大きく掲げてみせる。


 それは砂時計だった。


 木の枠に透明なガラスの管がはまっていて、その中にピンク色の砂が入っている。

 先生はそれを教卓に置いた。


 いっせいに、生徒たちが砂時計を取り出す。

 わたしも前もって準備するよう言われていた砂時計を机の上に出した。


 一体これ、何に使うんだろう?


「前にも言ったとおり、時間とは常に一定の速さで流れるものではありません」


 先生が砂時計をひっくり返すと、ピンク色の砂がさらさらと流れ落ちはじめる。

 上の管から落ちた砂が、徐々に下へと溜まっていく。


「この砂の落ちる速度も一定に見えますが、人によって、場合によって、それは自在に変わりうるのです」


 時間の話はいつもややこしい。


「ミオン、わかる?」


 セレーナも難しそうな顔をしている。


「うーんと、えーっと、相対性理論てやつ?」

「??」


 わたしたちが頭を悩ませていると、先生が言った。


「実際に、やってみせましょう」


 先生は、砂時計に向かって両手をかざし、呪文を唱えた。


「遅延魔法:<ディレイ>」


 その瞬間、落ちる砂の動きが変化した。

 さっきまで流れるように滑らかに落ちていた砂が、ぎこちない動きになり、まるで生クリームを絞り出しているみたい。


「すごい!」


 スローモーションのようにゆっくりと落ちていくその様子に、教室中の生徒から感嘆のため息がもれる。

 

「それではみなさん……、私がやったのと同じように、遅延魔法を唱えてみましょう……」


 深呼吸をしながら、先生はそう言う。


「どうしたのかしら、先生」


(どうやら、非常に消耗の激しい魔法のようだニャ)


 にゃあ介が言う。

 ふーん、時魔法って、そんなに疲れるんだ。


「とても難度の高い魔法ですから、はじめはうまくいかないと思いますが……、とにかくやってみてください」


 教室内が、遅延魔法を唱える声で一気に騒がしくなった。


 わたしは、机の上の砂時計に手をかざし、呪文を唱える。


「――ディレイ」


 その途端、身体からすごい勢いで魔力が吸い取られはじめるのを感じる。

 わたしは精神を集中し、目を閉じた。



   ◆




 数十分後。

 わたしは額の汗を拭いながら、砂時計とにらめっこしていた。


「うう……」


 教室中の目がわたしを向いている。


「ミオン、だいじょうぶ?」


 心配そうに訊ねるセレーナに、


「だいじょうぶ」


 と小さく答える。


「ちょっと恥ずかしいだけ」


 みんなの視線を受けて恥ずかしいけれど、悪い気分ではなかった。だって……


「成功したのは、ミオンさんだけですね」


 ユナユナ先生が言う。


「えへへ……」


 ぽりぽり頭を掻きながら、わたしは心の中に誇らしい気持ちがわいてくるのを感じた。

 わたしの砂時計は、先生と同じように、スローモーションになったのだ!


「すばらしい。ミオンさんに拍手を」


 わたしは赤くなって照れる。


「みなさん、ミオンさんを見習って、練習に励むように」


 やめてよ、先生、そんなに褒めないで?

 ぐふ!


(あんまり図に乗るんじゃニャい)


 これでヨーグルト食べ放題。

 ぐふふ!


(慢心は人間の最大の敵だ。ウィリアム・シェイクスピア)


 なんかよくわかんないけど、ぐふふふ!


(やれやれ、だニャ)


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