第九十七話 魔導書の噂、収束
魔法学総合の授業後のことだった。
ショウグリフ先生が帰った後、突然教室に声が響いた。
「みんな聞いてくれ!」
ケインだった。教室の真ん中でふんぞり返って大声を出している。
「ぼくはワイナツムの洞窟へ行って魔導書を手に入れてこようと思う!」
そう言うと額に金髪を撫でつける。
「別に宣言しなくてもいいと思うのだけれど」
となりでセレーナが言う。
「そうだね。でもちょっと心配だなあ」
わたしはワイナツムの洞窟での毒の煙の一件を思い出す。
「……そうね。あんなことがあったわけだし」
煙が充満してきて、洞窟内で八方ふさがり……あれって結構ヤバかったよね。
あのときはなんとか助かったけれど、同じことがケインに起こらないとも限らない。
「やっぱり、忠告しとこう」
「あっ、ミオン……」
わたしはそっと近づくと、ケインに向かって言った。
「ねえやめときなよ。危ないよ」
「なに?」
ケインはわたしを見ると、にやりと笑った。
「先を越されたくないんだろう、ネコむすめ」
「ちがうよ。心配してるんだよ」
ケインはますますふんぞり返ると、高らかに叫んだ。
「僕は宣言する! 必ずワイナツムの洞窟ヘ行って魔導書を取ってくる!」
ケインは自信満々だ。
えー……どうしよう、よけいやる気にさせちゃった。困ったなあ。
わたしが頭を悩ませていると、甲高いユニゾンが教室に響いた。
「ワイナツムの洞窟なら、ミオンさんがもう行ってきましたよ!」
「なにっ!?」
教室内のみんなが一斉にわたしのほうを見る。
「あ、ちょっとミム、マム……」
「魔導書なんてなかったんだって。残念ですよね!」
みんながざわつき始めた。
「…………」
ケインは赤い顔をして押し黙っている。
わたしは教室中に洞窟探検のことを暴露されて、慌てる。
「ね、ミオンさん!」
「そ、そうだけど……」
「この獣人め!」
ケインがいまいましそうに叫ぶ。
「いつもいつも僕の邪魔ばかりしやがって!」
(そうだったかニャ? たしかミオンたちはケインの命を救ったはずだが)
にゃあ介が言う。ケインはさらに続ける。
「自分たちだけで魔導書を隠し持っているんじゃないだろうな」
「そんなこと!」
わたしが否定しようとすると、
「ふん、わかったもんか」
そう言い捨てて、ケインは振り向きもせず教室を出て行った。
わたしはため息をつく。
「やれやれ……」
ケインって、どうしてあんなに好戦的なんだろう?
(悪口は意地悪な人の慰めである。ジョセフ・ジューベル。周りを見下すことで自分を慰めているのニャ)
「にゃあ介、言い過ぎ……でも」
わたしは気を取り直して考える。
「これでもう洞窟に行く生徒がいなくなると思えば、まあ、いっか」




