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第九十一話 ワイナツムの洞窟(B2F)

 何かうるさい。

 どこかで変な音がずっと鳴り続いている。


 ゴブリンガードたちを倒して次の階層へ下りようとするわたしたちの耳に、階下からその音が聞こえてきた。


「なんなのこの何かを踏んづけたみたいな音……」


 ぶぎゅ、ぶぎゅ、ぶぎゅる。

 あんまり気持ちのいい音じゃない。

 洞窟の薄暗さも相まって、なんだか気味が悪くなってくる。

 気分を上げようと、歌をうたう。


「ねこふんじゃった♪ ねこふんじゃった♪」


「ミオン。ワガハイはその歌、好きではニャい」


 にゃあ介に言われ、黙って階段を降りる。

 階下に着くやいなや、小さな二つの目と目が合った。


「……カエル?」

「みたいだな」


 リーゼロッテは落ち着いた声で言う。


「ボギートード。Fランク相当だから強さ的にはたいしたことのない敵だ。だが、毒を持ったものもいるので注意したほうがいい」


「カエルがゲコゲコ鳴いてたのね……」


 わたしは、手の炎をすこし大きくして掲げる。

 その途端、とんでもない光景が両眼に映ってきた。


「えっ、ちょっと……!」


 わたしは青くなる。

 たしかに、すこし大きめのただのカエルにすぎない。

 わたし、カエルはそこまで苦手じゃない。だけど……


「なんなの、この数!」


 薄暗い洞窟内は、ところどころに水溜りができていて、また上階と同じようにかなり広くなっていた。

 そのジメジメとした洞窟内が、見渡すかぎりカエルで埋め尽くされていた。

 わたしは叫んだ。


「か、か、か、帰る~!」


「つまらニャいダジャレはよせ、ミオン。そんなことより、ここが魔法のみせどころだろう」


「!」


「そうよ、ミオン。こんなのと、一匹一匹戦っていたら、キリがないわ」

「ああ、魔法で一網打尽にしてしまってくれ」


 そうか、そうだった。わたしとしたことが、魔法の存在を忘れるなんて。

 こういうときこそ、魔法が役に立つのだ。


 わたしはすこし考えて、言う。


「ねえ、全部やっつけちゃわなくても、通れればいいよね?」


「まあ、そうだな」

「そうね、魔石を拾い集めるのも大変そうだし」


「ようし……セレーナ、明かりお願いね」


 わたしは手の炎を消し、呪文の詠唱に入る。


「来たれ彼を吹はらう患難の聲よ、精霊の吹かす風よ……パラライズウインド!」


 エスノザ先生の特別授業を受けて以来、鍛えてきた魔力のコントロール。

 そのおかげか、洞窟全体にゆき渡るだけの魔力をスムーズに解き放つことができる。


 身体を風が吹き抜けていく感触がする。

 後頭部から首筋、両腕を通って、手から猛烈な風が発生する。

 ちょっと後ろによろけそうになるくらい。


 痺りの風が、洞窟内を吹き荒れる。

 またたくまに、カエルたちの鳴き声が止む。

 ぴょんぴょん跳んでいたカエルが、地面へぱたぱたと落ちてくる。


「さすがね!」

「うむ、大したものだ」


 セレーナとリーゼロッテに褒めてもらってホクホク顔のわたしはまた手に炎を発生しなおし、


「さ、今のうちに行っちゃお?」


 と、スキップで足を踏み出し、下の階層へ向かった。


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