第九十話 ワイナツムの洞窟(B1F)
ひとつ下の階層をしばらく歩く。
奥に行くにしたがって洞窟内は扇状に段々と広がっていた。
「こんなに広くなってるんだ」
「学校の教室三つ分ほどもあるかしら?」
「広い本道に、横道がいくつか繋がっているようだな」
「しずかに!」
にゃあ介が言う。
わたしたちは足を止める。耳を澄ますと、確かに何か聞こえる。
足音と、そして、息づかい。
じっと目を凝らしていると、やがて横道からやつらが現れた。
「ご丁寧にお出迎えというわけかニャ」
「……ゴブリンガード」
赤い身体に赤い目をしたゴブリンガード。こちらを睨みながら荒い息で横道から出てくる。
縄張りに侵入してきたこちらの存在はすでに察知しているようだ。
一体目は手に棍棒を、二体目は手に短剣、三体目は長い剣を手にしていた。
心拍数が上がる。
「大丈夫」
わたしは自分に言い聞かせる。
落ち着いて。
普通に戦えば、勝てるはず。
「三体か……一人一体。油断するな」
にゃあ介の言葉が終わる前に、ゴブリンガードたちは、三方向へ散開していた。
わたしは右へ走る。
すぐにそのゴブリンガードに追いつく。
棍棒を振りかぶるゴブリンガード。
わたしは左へ小さく跳んで、それをかわす。
「やあっ」
ルミナスブレードが光る。
首から鮮血を噴き上げるゴブリンガード。
一瞬のち、魔物は魔石化する。
「よし、一体」
振り向くと、セレーナが二体目の胴体を貫くところだった。
「あと一体は……!?」
視線の右、洞窟奥で、その一体は短剣を構えていた。
口からは涎を垂らし、爛々と光る目は、その先にいるリーゼロッテに据えられている。
わたしは左へ視線を移し、リーゼロッテへ目をやる。
リーゼロッテは弓を構えている。
どうやら、身体強化魔法はかけ終わっているようだ。弦の引きが、いつもとは違う。
ゴブリンガードが駆け出した。まっすぐリーゼロッテに向かっている。
わたしはいつでも援護できるように剣を手に走りだす。
リーゼロッテは慌てない。
じっくり引きつけて……、
矢を放った。
矢は、ゴブリンの脳天を貫き、風切り音と共に洞窟の奥へと消えていった。
奥でバアァン! と爆発音が鳴る。矢が洞窟の壁に当たり、岩を削りとったのだ。
魔物は一瞬、自分に何が起こったかわからないように、その場に突っ立っている。
そして、唐突に魔石化した。
「やった……のか?」
リーゼロッテは、軽い放心状態のようだ。
強化魔法による攻撃が上手くいきすぎて、驚いているみたい。
「やったわね、リーゼロッテ」
セレーナがリーゼロッテに微笑みかける。
これで、みんなやっつけた……?
安堵の空気が広がりかける。
そのときだった。リーゼロッテの声が洞窟内に響きわたった。
「あぶない!」
倒れていた死にぞこないのゴブリンガードが立ち上がり、背後からセレーナへ向かって飛びかかったのだった。
「!」
セレーナが振り向く。剣を構える。
ゴブリンガードは剣を振りかぶる――。
◆
しかしわたしはすでにその魔物に素早く詰め寄っていた。
ゴブリンガードを袈裟斬りで斬る。
右肩から入った短剣は、斜めに、魔物を切り裂いた。
同時に、セレーナは振り向きざまにエリクシオンで切り上げる。
魔物の断末魔の叫び。
四散したゴブリンのむこうに、セレーナの顔が見える。
「……さすがね、ミオン」
「もう油断はしないって、言ったもん」
わたしがにっと笑うと、セレーナも口角を上げ微笑み返す。
「大丈夫か!?」
リーゼロッテが駆け寄ってくる。
「魔石化しないから、おかしいと思ったの」
わたしは倒れたゴブリンガードを見下ろし、魔石化を確認する。
「これでよし、と。……もう敵はいない?」
わたしたちはまわりを見まわし、それ以上敵が襲ってこないのを確認する。
「大丈夫みたいね」
なんとか、息を整え、わたしは言う。
「ふー! どうなるかとおもった!」
「さすがだな、ミオン、セレーナ」
リーゼロッテが言う。
「ううん、今度は絶対油断しない、って決めてただけ」
わたしは後頭部へ手をやり、えへへと笑った。
「残心、残心。……ね、にゃあ介?」
にゃあ介は、わたしの頭の上でぴょんと跳ね、こう答えた。
「上出来」




