表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/605

第八十九話 ワイナツムの洞窟(1F)

 エスノザ先生の課外授業を受けるようになって数日たった頃だった。

 授業後、帰り支度をしているとミムとマムがわたしのところへきて、こんなことを言い出した。


「ミオンさん、ミオンさん! あのウワサ、聞きました?」

「え、ウワサって?」


「知らないんですか。今、学園はそのウワサでもちきりですよ!」

「???」


「誰か入手しに行く人はいないかって。わたしたちは、やっぱりミオンさんに違いないって言ってるんですけど」


 わけがわからないわたしは、二人に訊ねた。


「ねえ、いったい、何のこと?」


 ミムマムの二人は顔を見合わせ、言った。


「魔導書のことですよ!」


 わたしの興味は一気にひきつけられた。


「魔導書? なにそれなにそれ!」


 目を爛々と輝かせて二人に迫る。魔導書……その響きがいい!


「あのですね、ルミナスの近くの高台に、洞窟があるの知ってます?」

「高台の洞窟……ワイナツムの洞窟のこと?」


「ハイ! その洞窟の最深部に、魔導書が隠されていて、そこには今は失われた旧い黒魔法についてかれているんですって!」




   ◆




 わたしたち三人は木漏れ日の並木を歩きながら、校舎をあとにしていた。

 さきほどミムとマムから聞いたウワサをセレーナとリーゼロッテに話す。


「どう思う?」

「本当だとしたら、すごい話ね」

「ああ、たしかにこれまでも未知の魔法について書かれた魔道書が見つかることはたびたびあった。……しかしルミナス近辺にそんなものがあるなんて、私が調べた文献には載っていなかったが」


 リーゼロッテが眼鏡に手をやりながら呟く。


「それにしても、ミオンらしくないな」

「え?」

「いつもだったら、すぐにでも私たちを引っぱって洞窟へ乗り込んでいくと言いそうなものだが」


 リーゼロッテは軽く笑いながら言った。


 確かにそうだ。でも、わたしには二の足を踏んでしまう理由があった。


「行ってみましょう」


 セレーナが唐突に言った。


「え?」


 わたしは思わず訊き返す。


「ワイナツムの洞窟の最下層を目指すのよ。今の私たちなら、いけると思わない?」


 ワイナツムの洞窟……。

 その下層を目指すと聞いて、苦い記憶がよみがえる。


 いつだったか、わたしとセレーナはあの洞窟へ行き、下層を目指した。

 そのとき、慢心から招いた油断が、セレーナに怪我を負わせてしまった。


「大丈夫よ」


 わたしの考えを察したのか、セレーナが言う。


「もう、油断なんてしないでしょ?」


「……うん!」


 わたしは、大きくうなずいた。

 そう、もう、絶対油断なんてしない。セレーナをあんな目に合わせるわけにはいかない。


「それに……ミオンが魔導書と聞いて黙ってるなんて、絶対おかしいわ」


 セレーナが、ふふ、と笑いながら言う。


「なによー。人を魔法バカみたいに」


「ワイナツムの洞窟……、前に一度、新しい武器を試しに行ったところだな?」


 リーゼロッテが訊ねる。


「そう。リーゼロッテは一回しか行ったことないよね。ギルドの受付のリンコさんの話だと、最下層にはCランク相当のモンスターも出るんだって」


 リーゼロッテはこくりとうなずいて、


「ふむ……行ってみよう。私も、新しい技――筋力強化で矢を放つのを試してみたい」




   ◆




 ワイナツムの洞窟へ着いたのは、まだ日の高いうちだった。

 洞窟の入り口から中を覗きこむ。

 外の明るい陽光と対比的に、奥のほうは塗りつぶしたように黒い。


「行くか……」

「うん」

「それじゃあ、炎を手に」


 ぬいぐるみにゃあ介が言う。


「ただし、油断するニャよ。中へ入ったら、全員同時に詠唱は、なしだ」


 そうだった。あのとき、セレーナが怪我を負ったのは、わたしとセレーナが同時に隙を作ってしまったため。

 もうあんなミスはおかさない。常に、気を張って、まわりに気を配っておかないと。


 わたしとセレーナが手に炎の球を発生させ、リーゼロッテは弓を構える。

 そして洞窟の中へと足を踏み入れた。


 油断しない。

 油断しなければ、大丈夫。




   ◆



 最上階のスライムは、問題にもならない。

 今のわたしたちにとっては、準備運動の役割も果たさなかった。

 ナザーロの洞窟でスライムから逃げまどっていた頃がなつかしい。


「だがあまり調子に乗るニャよ」


 わたしの肩に、ぴょこと乗ってきたにゃあ介が言う。


「うん」


 わたしは目についた最後のスライムを横へ払うと、二人に言った。


「気をつけなきゃいけないのは、次の階層のゴブリンガードだよ」


 リーゼロッテとセレーナは、


「ああ」

「わかってる」


 と、うなずいて武器を手にしっかり構える。


「よし、じゃ、いこう」


 わたしたちは息を殺すようにして洞窟内を進み、階段を下りた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ