第八話 意地悪な人※挿絵あり
さあ、ここが夢にまで見た<シズの止まり木>。
この界隈での最高級宿と聞いております。
野宿して、モンスターと戦ってまで稼いだ宿賃で、たっぷり堪能してやりますよ!
……いざ!
「いらっしゃいませ」
わたしが中に足を踏み入れると、ひとりの女中さんがうやうやしく迎えてくれる。
「お泊りですか?」
「はい!」
「あら、うふふ。元気のいい娘さんだこと」
女中さんが笑う。わたしも釣られて笑った。感じの良さそうな女中さんだ。
「あ、当宿の主人が参りました」
女中さんはそう言うと、一歩下がった。奥から、宿の主らしき男の人が現れる。
「いらっしゃいませ、当宿へようこ……」
笑顔で現れた宿の主人は、わたしを見ると、途端に不快そうな表情に変わった。
何で? わたしの心は一気に沈んでしまった。そんな顔しなくていいのに……わたし、お客さんだよ?
「お前さん旅人かね。……金は持ってるのかい」
「もちろん!」
わたしは、ここぞとばかり、ポケットに手をやると、ラウダさんと稼いだお金を取り出して見せつけた。
へへん、どうだ。驚いたか。
「ふーん、盗んだ金じゃないだろうね」
「違います! ちゃんと……」
返事も待たずに、主人はわたしの手からぶんどるようにしてお金を数えだす。
ちょっと、この人、あんまりにも失礼じゃない?
「じゃあ、まあ、泊まっていいけど、くれぐれも粗相のないようにな」
粗相って何よ! 頭に来ちゃう。
「あの、晩御飯なんですけど……」
「もうないよ。うちは日没までと決めてるんだ」
「そんなぁ……!」
わたしが女中さんに懇願の目を向けると、女中さんは気の毒そうな顔で、口をパクパク動かす。わたしには、それが「ごめんなさい」だとわかった。
「部屋はどこが空いてる?」
と、主人は女中さんに訊く。女中さんは、
「はい、『瑠璃の間』が」
「『瑠璃の間』か。いい部屋だから、気をつけるように」
うなだれながら、女中さんに案内されていくわたしの後ろで、声がした。
「ふん、ネコ娘風情が生意気にうちの宿に泊まるなんざ……」
聞こえていたけど、聞こえないフリをした。
「本当にごめんなさいね」
「しょうがないです」
わたしは言った。女中さんは、
「おにぎりでも持ってきましょうか」
と言ってくれたけれど、宿の主人にばれたら女中さんが怒られるだろう。それは悪いので断った。
「明日は、朝の鐘が鳴るまでに食堂へお越しくださいね。じゃないと、また食べれなくなっちゃうから」
「わかりました。絶対行きます」
女中さんは、「それではごゆっくり」と言って、出て行った。
女中さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、わたしは、目の中に涙が溜まってくるのを感じた。
このままだと泣いちゃう。号泣しちゃう。それはあまりにも悔しい。
だからわたしは寝逃げすることにした。明日、朝ごはん、たっぷり食べてやるんだ。
それにしてもやっぱり、どこの世界にも、意地悪な人っているんだわ……。それがショックだった。
眠りにつく寸前、わたしは夢うつつの状態で、にゃあ介の声を聞いた。
(……寝たか。それにしても、あの宿の主の態度は少々目に余る。ワガハイがちょっと懲らしめてやろう)