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第八十六話 答え

「……さん。……ミオンさん!」

「え? ハ、ハイ!」


 ぼうっとしていた。エオル先生に呼ばれているのにも気づかなかった。


「ヌギルの葉の用途を答えてください」

「ハ、ハイ……なんだっけ」

「やれやれ、まだ休みぼけが続いているようですね……それではセレーナさん」

「あ、はい。ヌギルの葉の燻煙には鎮静作用があり……」


 休暇が終わり、ルミナスへ戻ってからも、レッサー・ドラゴンに完敗してしまったことが頭にこびりついて離れなかった。

 ようやくはじまった授業にも、なんだか身が入らない。



 何故、勝てなかったんだろう?


 あんなに特訓したのに。

 あんなに頑張ったのに。


 剣の特訓、弓の特訓、みんなでウワオギだってマスターした。


 それでも倒せなかった。

 敵わない敵。

 じゃあ、そんなとき、どうすればいいの?


 午前の授業が終わり、食堂へ向かう。

 リーゼロッテ、セレーナと三人で席につくと、麦粥にブラックハネンの干物を削りかける。


「元気出して! ミオン」

「うん……」


 セレーナの言葉にも、上の空のわたし。

 心ここにあらずの状態で削っていたら、知らぬまに山盛りになっていた。


「元気のないミオンなんて、ミオンじゃないぞ」


 リーゼロッテも励ましてくれる。

 けれど、わたしの気分は一向に上がってこない。一体どうすべきなのか、答えが見つからない。


「やれやれ」

「困ったものね……」


 二人はため息まじりにそんなわたしを見守っている。




   ◆




 答えは、案外簡単に見つかった。

 いつだって、人生の難題に見える問いの答えは、思ったより簡単なところに転がっているものなのかもしれない。


 それに気づかせてくれたのは、リーゼロッテの言葉だった。


 その日、いままでどおり学校終わりに校庭で会い、三人揃ったわたしたちはとりあえずあてもなく歩き始めた。

 ――わたしは、魔法を学び、剣の特訓をして、強くなったつもりでいた。

 その自信を打ち砕かれ、なんだか裸で大海原に投げ出されたような心細さだった。


 歩いている途中、リーゼロッテがこう切り出した。


「二人とも、ちょっといいかな」

「どうしたの?」


 リーゼロッテは眼鏡にちょっと手をやって、こう言った。


「二人は魔法剣を知っているか?」

「魔法剣?」


 予想外のことだったので、わたしは思わず声をあげた。

 

「そういえば以前、セレーナが図書室で魔法剣の本を読んでたよね」

「ええ。少し興味があったものだから」

「もしかしてリーゼロッテ、魔法剣を使うの?」


 リーゼロッテは頭を掻きながら、 


「いや。魔法剣はそんな簡単なものじゃない。扱う人間にも相当な素質が必要だし、また使用する武器も魔法に適合する物は希少だ」


「そうなんだ」


「弓を強化するのは難しい。だから……」


 リーゼロッテは言う。


「矢を放つとき、筋力を魔法で強化したらどうかな?」

「あっ、それいいかも。身体強化魔法!」

「そうだ。強化魔法の力を借りれば、さらに強力な力で弓を引けるのではないだろうか」


「……なるほど!」

「いい考えだニャ」


 ぬいぐるみ化しているにゃあ介が、わたしの肩の上にぴょんと顔を出す。


「ミルもそう思うか?」

「ああ。魔法の力をのせれば、威力、射程ともに大幅に上昇するにちがいニャい」


「そうか。レッサー・ドラゴンに私の矢は歯が立たず弾かれていたからな。もっと威力を上げられないか考えていたんだ」


 リーゼロッテは満足そうにうなずく。


「人によって魔法の得手不得手があるが、幸い私は身体強化魔法は得意なほうだ。もちろん、私の魔力はミオンと違って無尽蔵ではない。ここぞという時に使うために、まだまだ筋力トレーニングも必要だ」


 わたしはリーゼロッテが弓のことをそこまで考えていたことに感心する。

 にゃあ介に提案され、なんとなく始めた弓。その武器は、もうリーゼロッテにとってなくてはならないものになっているのかもしれない。


 図書館で毎日コツコツと勉強していたリーゼロッテ。だけどリーゼロッテの向上心は勉強だけじゃなかった。

 体力アップのトレーニングも弓の訓練も怠らず、ひたすら強くなろうと頑張っていたのだ。


 気がつくと、わたしは呟いていた。


「そうか、そうだよね」


 簡単なことだった。

 答えはとてもシンプルなことだったんだ。


「どうしたの?」

「なんだ、ミオン?」


 足りないのなら、もっとやればいいだけ。

 勝てるようになるまで、力をつければいいだけ。


「そうだよ。それしかないんだ。もっとやるしか!」

「ミオン……」


 もう一度挑戦するんだ。


 それが、答え。


 それでだめだったら、もう一回。

 それでだめだったら、もう一回。


「そう……勝つまで、やめない」


 もっと。もっと強くなりたい。

 力が欲しかった。何者にも負けない力が。


「よし、行こう、いつものトレーニング場!」


 わたしは率先して歩き出す。


「おいおい」

「待ってよ、速すぎるわミオン!」


 そう言いながらも、わたしの後ろで二人が顔を見合わせ、笑っているのがわかる。やれやれようやく元気が戻ったか、って感じ。


「さあ、行くよ行くよ! ぼーっとしてたら置いてっちゃうんだから!」


 坂道を駆け下りるように早足で歩く。だらだらしてたら時間が勿体ない。


 なんだか目の前にかかっていた黒い霧が、急に晴れたような気がした。


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