第八十四話 ポートルルンガのギルドにて
炭坑の町コルトンを出たわたしたちは、港町ポートルルンガへ向かう馬車に揺られていた。
青空に漂う白い雲が、雄大な自然を上界から見下ろしている。名も知らいない鳥が、呑気そうに空を駆けていく。
落ち込んだ気分を晴らそうと、小窓を流れる景色をぼーっと眺めていると、
「ギルドに寄らないとな」
リーゼロッテが言う。
「うん……」
わたしは手に持っていたドミンゴの実に目をやる。
おばさんが別れ際に持たせてくれたのだ。
それを口に放り込み、頬張る。
「そうね。討伐報告はルミナスでもできるでしょうけれど、早いほうがいいわ」
上品にひと口づつ食べながらセレーナが言う。
あまり気乗りしないなあ……ギルドでの過去の苦い記憶が呼び起こされ、ちょっと憂鬱になる。
でも、行かないわけにはいかない。
「港町ポートルルンガにとうちゃく~」
客車の扉を開け、ピョンととび降りる。
長時間馬車に揺られていたせいか、足元がちょっとふらつく。
こうやって馬車の震動が身体に残ってしまうのは、いったいどういう仕組みだろう。
ふう、と溜息をつくわたし。
この街のギルドには、いい思い出がない。
初めて来たときには、魔法で強い魔物を倒すと宣言したわたしのことを、みんなに馬鹿にされて。
二度目に来たときも、笑われた。
魔法を操って、ドラゴンを倒して、魔法が強いことを証明したかったのに。
あのときギルドにいた人たちに会いたくないなあ……。
誰にも見つかりませんように、と願いながらギルドの両開きの扉を押す。
「おっ、いつぞやの嬢ちゃん!」
あぅ。
ギルドへ入るなり、奥の酒場から酒に焼けたガラガラ声が飛んできた。
声をかけてきたのはまたあの人だ。
わたしが魔法学校について訊いた、長髪で無精髭の目立つ中年の人。
真っ昼間からぐでんぐでんに酔っ払っているようだった。
千鳥足でこちらにやってくる。
「…………」
気にしない気にしない!
わたしは無表情をきめこみスタスタと受付カウンターへ向かう。
「なんだよ、つれないねぇ~」
男は酒瓶を片手に、顔を覗きこみながらついてくる。
……うぅ、酒臭い。
「おい嬢ちゃん、それで大物は仕留めたのかい?」
男は、カラカラと笑いながら言った。
わたしは何も言い返せない。
だって、にゃあ介に助けてもらっただけなんだから。
「だはは! まあそんなに気を落とすなって!」
気にしない……気にしない……
いつのまにかわたしは肩を落とし、ショボくれた顔でトボトボとした足取りになっている。
人類の進化の過程を逆向きにしたみたいに、だんだん背中が丸まって、最初の勢いはなくなってしまった。
カウンターへたどり着くと、受付の大柄な男の人を見上げる。
「あの……」
その男の人は、腕を組んだままじろりとわたしを睨むと、ぶっきらぼうに、
「ん? いつぞやのFランクの娘か。何か用か?」
と訊いてくる。
わたしはため息混じりに言う。
「レッサー・ドラゴン、倒しました」
背後から、酔っぱらい男の素っ頓狂な叫び声が上がった。
「……い!?」




