第八十三話 討伐報酬
おばさんにいわれるまま宿の外へ出ると、そこには十数人もの男たちが列をなして並んでいた。
みんなの顔に覚えがある。第三炭坑の炭坑夫たちが勢揃いしてやってきたのだ。
「話を聞いたらね、充分お礼も言えなかったっていうから、連れてきたんだ」
炭坑夫たちはきまり悪そうに、こちらを見ている。
みんな無骨な炭坑夫らしくない、もじもじとした動きで、下を見たり、地面を蹴ったりしている。
「ほら、なにをしてんだい! 早く礼を言いな!」
「いてっ」
おばさんが一人の炭坑夫の背中をばんっと叩く。
炭坑夫は頭をかきながら進み出て、こう言った。
「えーと、ありがとうな、ガンツァを助けてくれて」
ぎこちない口ぶりだったが、心がこもっていた。
「きのうはちゃんとお礼もできずに、すまなかった」
ガンツァさんを託されたあと、自分たちの取った態度が気にかかっているようだ。
あのとき、炭坑夫たちは怯えるような目で、わたしたちを遠巻きに見つめていたのだった。
「そんなこと……。全然気にしてません」
「なんていうか、女の子三人でレッサー・ドラゴンを倒したなんて言うもんだから……びっくりしちまって」
「まったくだらしないねえ、図体だけでかくて、てんで根性なしなんだから」
「うっ。面目ねえ」
ぽりぽりと頭をかく炭坑夫。
「それで、これを渡すのも忘れちまってた。さあ、受け取ってくれ」
「これは……?」
「ギルドを通して受け取って貰ってもいいが……」
そう言うと、重そうな膨らんだ白い布袋を抱え、差し出してきた。
「ギルドへの討伐依頼は俺たち炭坑夫の組合で出していたんだ。ここで報酬を渡しちまったほうが早いだろ?」
炭坑夫は布袋の口を開けて、中を見せる。
袋の中には、金貨が一杯詰まっていた。
わたしは、何も言えず立ったままでいた。
しばらくしてわたしは、俯いたまま、首を横に振った。
「……受け取れません」
「なんだって!?」
炭坑夫たちは予想もしていなかった答えに驚きの声をあげる。
「受け取れねえって……嘘じゃねえんだろう? レッサー・ドラゴンを倒したってのは」
「ガンツァもあんな状態だったが、君らがドラゴンと戦うのを見たって言っていたぜ!」
「あ、レッサー・ドラゴンを倒したのは本当です」
わたしは慌てて言う。
「あたしの息子は嘘をつくような人間じゃないよ! この子らもそうさ、見りゃわかるよ」
おばさんも、腰に手をあてて頷く。
「はい、倒したのは本当です。でも……」
レッサー・ドラゴンは倒したけど、倒したのはわたしじゃない。
わたしはセレーナとリーゼロッテを見る。
「ミオンの好きにしたらいいわ」
「ああ、どのみち私は大して役に立ってないしな」
役に立ってない、というならわたしも同じ。
レッサー・ドラゴンを倒したのはにゃあ介なんだから。
白い布袋の中には、金貨だけじゃなく錆びた銀貨や汚れた銅貨が詰まっていた。
炭坑夫たちが汗水たらして岩を削り、コツコツ溜めたお金を、とんびが油揚げさらうみたいに頂くわけにはいかない。
「ごめんなさい、やっぱり報酬は受け取れません」
わたしは頭を下げて言う。
ごめんね、にゃあ介。これでいい?
(ワガハイは金などに興味はニャい。ミオンの好きにしろ)
「し、しかし……」
「ああ。俺たちの気が済まない。せめて何か受け取ってもらわないと!」
炭坑夫たちは口々に話しかける。
「あんたたち、欲がないねえ。何か事情があるみたいだけど……」
おばさんは腰に手をあてたまま言う。
「でも、こっちもハイそうですか、というわけにはいかないよ。炭坑夫は義理と人情にはうるさいんだ」
おばさんも炭坑夫たちも、手ぶらで帰してはくれそうにない。
うーん、どうしよう?
この場をおさめるためにどうするか頭をひねっていると、街の民家の軒先に吊るしてある、ある物が目に入った。
「それじゃあ」
わたしはこう口にする。
「ブラックハネンの干物を何本かもらえますか?」
「……ブラックハネン?」
初めて聞く言葉かのようにきょとんとする炭坑夫たち。
「そんなんでいいのかい?」
おばさんが聞き返すと同時に、ニャハー! と頭の中で声がした。




