第八十一話 炭坑にて
わたしたちは三人で、負傷していた炭坑夫をかつぎ、第三炭坑へと急いだ。
やがて、草に覆われた山肌にぽっかり開いた入り口が見えてくる。
「すみませーん、誰か!」
すると、炭坑夫が走り出てきた。先ほど鉱石置き場を教えてくれた人だ。
「さっきの嬢ちゃんたち。どうだった?」
そして私たちを見るなり、
「……大変だ! みんな!」
炭坑夫がそう叫ぶと、中から別の炭坑夫たちが現れる。
「なんだ、どうしたってんだ……そいつは?」
わたしたちのかついでいる炭坑夫を見て、
「ガンツァじゃないか!」
と、大声を出す。
騒ぎを聞きつけた他の炭坑夫たちも、どんどん集まってくる。
「怪我をしているんです」
セレーナが言った。
「ガンツァ! 大丈夫か、おい、ガンツァ!」
「う……」
負傷している炭坑夫がうめいた。一応、意識はあるみたい。
シャツの背中は破れ、赤く染まっているが、傷は見た目ほど酷くはないようだった。
「……傷は深くないようだ。おい、みんな」
慌てて数人の炭坑夫たちが駆け寄り、ガンツァと呼ばれた炭坑夫を運んでいこうとする。
「ちょっと待って!」
わたしはそう叫ぶ。
「何だ? はやく医務班にみせないと」
と、炭坑夫たちは怪訝な顔をする。
「待ってください、ちょっとだけ……」
わたしは炭坑夫たちがかついでいるガンツァという炭坑夫に近寄り、その背中に手を当てる。
「汝大なる精霊よ、聖なるいのちの宿り木よ、癒やしの光を今ここに」
わたしの手から出る小さな青い光とともに、炭坑夫の傷口がじわじわと閉じていく。
「おお……」
息を飲む炭坑夫たち。
「嬢ちゃん、回復魔法の使い手か」
「ルミナスの魔法使い見習いです……あの、まだ完治ってわけじゃないと思うので、一応医務班さんにもみてもらってください」
炭坑夫たちは、言う。
「わかった。この傷なら大丈夫だと思う。それより……」
「そ、そうだ! レッサー・ドラゴンは? やつは今どこに?」
顔を見合わせるわたしたち。
代表して、リーゼロッテが言った。
「倒した」
「は?」
目を白黒させる炭坑夫。
「おいおい、こんなときに冗談はよしてくれ!」
「レッサー・ドラゴンの出没情報を流さないといけないんだ! 他の誰かが襲われたらどうする?」
「だから嬢ちゃんたち、後生だからつまらない冗談言ってないで、レッサー・ドラゴンの行方を教えてくれ」
「あの、本当に倒したんです」
わたしは、レッサー・ドラゴンを倒したときに現れた、鈍色の魔石を腰の小物入れから取り出し、見せる。
「これは……」
眉をひそめて魔石を確認する炭坑夫たち。
「おい、これってレッサー・ドラゴンの魔石なのか……?」
「わからん……そんなもの見たことないからな。しかしスライムやゴブリンの魔石なんかじゃないことくらいは俺にも分かる」
魔石をかわるがわる見分すると、炭坑夫は言った。
「じゃあ本当に、女の子三人でレッサー・ドラゴンを倒した?」
「信じられん……」
炭坑夫たちのわたしたちを見る目つきが変わっていく。
「レッサー・ドラゴンは高ランク冒険者のパーティでも苦戦する相手だぞ……?」
目を大きく見開き、畏怖しているような表情で、こちらを窺っている。
「あの、わたしたち、もう行きますね」
「あ、ああ」
それだけ絞りだすように炭坑夫は言った。
みな、なんだか恐縮してしまったように、小声だ。
もしかして、ちょっと怖がられてるんだろうか。
わたしたちが歩き始めても、炭坑はしーんと静まり返っている。
ひとりの炭坑夫が言った。
「ルミナスの導く三日月……?」
わたしたちは、立ち尽くす炭坑夫たちにお辞儀をして、炭坑の街コルトンへ向かった。




