第七十八話 レッサー・ドラゴンの習性
「魔物除けの魔石?」
「そう。結界用の魔石で、魔物をよせつけないの」
(そういえば、あのラウダとかいう冒険者がそんな魔石をもっていたニャ)
にゃあ介に言われて、わたしはいつかの野宿のことを思い出す。
「便利な魔石もあるもんだね」
わたしたちは、ドラゴンが現れたという情報をもとに、西の炭坑近くを歩いていた。
スナウ半島では珍しい鉱石が豊富にとれるとかで、その鉱石目当ての炭坑夫たちが頻繁に出入りしているらしい。
しかし、やはりそんな命知らずな鉱夫たちも、魔物除けの魔石が大量に用意された炭坑以外には、決して近づかないそうだ。
ドラゴンに出くわしたら、命がいくつあっても足りない。そんな風に坑夫たちは話していた。
けれど、ひと月前、炭坑夫が襲われたときは、炭坑近くまでドラゴンがやってきたのだ。
魔物にも個体差があって、ちょっと変わったのもいたりする。
魔石にそれほど近づいてきたのは、そんなはぐれドラゴンだろう、という話だった。
しかし。
「どうも腑に落ちないな」
とリーゼロッテ。
「どゆこと?」
「個体差、ということだけで片付けられるだろうか。いくらドラゴンといえど、好んで魔物除けの魔石に近づくことはない。何か、別の理由があるのでは?」
「例えば?」
「それが思いつかない。いまにも思いつきそうな気はするのだが……」
リーゼロッテはそう言うと、考えこんでしまう。
「ドラゴンにもいろいろいる……なぜ、レッサー・ドラゴンだけが……レッサー・ドラゴンの習性……」
腕を組んで下を向き、唸りながら、牛歩のように足を進める。
「でもさあ、採掘って、ちょっとやってみたいよね。すごい高価な鉱石とか採れちゃったりして」
わたしが言うと突然、リーゼロッテが、がばと顔を上げ、
「ミオン、いま何と言った?」
その剣幕に、わたしは思わずあやまる。
「ご、ごめんなさい。場を和ませようと思って……。別に本気で鉱石売って、可愛いお洋服買い放題とか、おいしい物食べ放題とかとか考えてたわけじゃ、あわわ……」
「鉱石……? そうか、それだ!」
リーゼロッテが走りだす。わたしとセレーナは顔を見合わせる。
「どうしたの、リーゼロッテ!」
◆
西の炭鉱内。
いま、リーゼロッテは炭坑夫に話を訊いている。
急に走りだしたと思ったら、ここへやってきて、炭坑夫に質問を浴びせはじめたのだ。
わたしは、わけが分からずにいた。
「第三炭坑でのみ、多く採れる鉱石のようなものはあるか?」
「ここでだけ? さてねえ……」
リーゼロッテの質問攻めに、困った様子の炭坑夫。
「ねえ、リーゼロッテ、何が言いたいの?」
わたしはリーゼロッテに訊ねる。
一度わたしを見たリーゼロッテは、炭坑夫に向き直って質問を続けた。
「その中に、キラキラ、ピカピカと光り輝くような、光沢のある鉱石はないか?」
「……あっ!」
たちまち、わたしはリーゼロッテの言わんとすることを理解した。
ルミナス・ウィザーディング・コンテストでの、あの髪飾り――。
「ラクナイト鉱石のことか?」
炭坑夫が思いついたように言う。
「この第三炭坑の坑道で、鉱床が見つかってな。ひと月くらい前から急に採れだしたんだ」
「それって一体……」
「どんな鉱石だ?」
鼻息の荒いわたしたちにたじろぎながら、炭坑夫は答えた。
「たしかに、光を反射して、ピカピカと眩しいことには違いないが……」
「それだ!」
リーゼロッテが叫ぶ。
「そういえば、今日も仲間のひとりが、大量に採れたラクナイトを丘へ運んでいったはずだ……」
炭坑夫のその言葉にわたしたちは、はっと顔を見合わせる。
「採掘された石はいまどこに? どこに運ばれるのだ!?」
リーゼロッテの緊迫した様子に、炭坑夫も何かを察知したのか、それ以上何も訊かず、要点を答えてくれた。
「炭坑の北西にある丘に、とりあえず積んである」
話を聞き終わるか聞き終わらないかのうちに、リーゼロッテはまた走りだしていた。
わたしとセレーナも、慌てて後を追う。
「待って、リーゼロッテ!」
リーゼロッテは速度を緩めずに言った。
「急げ! 手遅れになる前に」




