第七十七話 月の光※挿絵あり
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「と、いうわけ」
セレーナはさっぱりとした口調で言った。
夜はどんどん深くなっている。にもかかわらず、ときおり遠くから石を砕く高い音が聞こえてくる。
夜勤の炭坑夫たちがツルハシを振るっているのだろう。
「それから、剣術の修行に明け暮れて、過ごしたわ」
セレーナは思い出すように、続けた。
「ある程度は強くなったけれど、それでも何か足りない。これじゃ勝てない。もっと他の何かが必要だ、と思った。……で、それが魔法だって気づいたの。だから、魔法学校を目指すことにした」
セレーナの顔は月の光に照らされて、凛々しく見えた。
リーゼロッテは無言で立ち上がり、窓の側へ行くと、何かを思うように遠くを眺めている。
わたしは涙を必死でこらえていた……が、うまくいっているとは言えなかった。
「泣かなくていいのよ、ミオン」
セレーナは言った。
「私、強くなる。そして仇を討つの」
「セレーナ……」
わたしはセレーナのことを考える。
大好きだった父親。その父親を目の前で殺され、立ち直ったセレーナ。
セレーナはやっぱりつよい。すごい。
わたしだったら、耐えられただろうか?
そんな疑問が、心に浮かぶ。
ううん、ムリ。自己憐憫に浸って――腐って――きっと、ダメになってしまうだろう。
しばらくの静寂。月の光だけが降りそそぐ部屋。
ひとしきり続いていたツルハシの音が止んだ。
わたしたちは、改めて毛布の上へ座り直す。
「世の中にはもっと大変な人もたくさんいるわ」
セレーナが言う。
「そうかもしれない。それでも、やっぱりセレーナはすごいよ」
思っていたお泊り会とはちょっと違うけど、きっとこの夜のことは、一生忘れない。
そう思った。
◆
朝が来ると、わたしたちはすぐに宿を出た。
朝日が眩しい。
暖かい日になりそうだった。
「んー……」
伸びをしながら、辺りを見まわす。
炭坑の街の朝は早い。
すでに外は、往来を行く炭坑夫たちで活気づいていた。
「どいたどいた!」
声に驚いて道を譲ると、
「さあ、掘って掘って掘りまくるぞ」
と、威勢のいい掛け声を上げ、炭坑夫が駆けて行く。
「すごいなあ、毎日この時間から働いてるのかな」
朝に弱いわたしとしては、ただただ尊敬するしかない。
海の匂いの微かに香る風が、街を通り抜けていく。
あまり寝ていないけれど、悪い気分ではなかった。
これから戦いを挑むのが、生半可な相手ではないとしても。




