第七十四話 本音
暗い部屋に、青白い光が注いでいる。
なんだかんだ、あれからすぐに眠ってしまった。
ふと目が覚めたが、今はまだ夜半すぎのようだ。
わたしは毛布からそっと出ると、セレーナとリーゼロッテの体を踏まないように窓へ近づいた。
窓の外にはいつもどおり輪のかかった惑星が出ている。
そして、大きな月。
「きれい……」
「そうね」
振り向くと、セレーナが体を起こしている。
「ごめん、起こしちゃった?」
「いいえ。あまり寝付けなくて」
わたしはまた窓の外を見る。
炭坑の街に大きな月。
「三池炭鉱の上に出た、だね」
「何だそれは?」
「いや、こっちの話……って、リーゼロッテも起きちゃったの?」
わたしたちは三人並んで月を眺めた。
「本当にきれいだな」
「うん」
「ええ……」
わたしは思った。
もしかしたら、こんな機会もう二度とないかもしれない。
本当の友だちとならんで、月を見る。
魔法ごっこをして遊んでいた頃を思い出す。本音を馬鹿にせず聞いてくれる、本当の友だち。
わたしは二人に訊ねた。
「眠い?」
「いや」
「目が覚めてしまったわ」
「じゃあさ、朝までおしゃべりしましょう?」
(おいおい……)
にゃあ介が呆れたように言う。
(寝た方がいいんじゃニャいのか)
「朝まで?」
「ううん、朝までじゃなくてもいい。眠くなるまで。……ね?」
「まあ構わないが……」
「ええ、眠くなるまでなら……」
二人が同意する。
「やったー♪」
わたしは思わず大声を上げ、慌てて口を押さえた。
(やれやれ)
と、にゃあ介のため息が聞こえた。
◆
「何を話す?」
「うーん、そうだなー」
こういう場合、普通の女子だったら何話すかな? おしゃれ、食べ物、お洋服……
……それとも、やっぱ、恋バナ?
「ちょっといいかしら」
セレーナが言った。
「なに?」
「私の話、途中になってたわよね」
「何のこと?」
「父の仇のこと」
「…………!」
思わずセレーナの顔を見る。月明かりに照らされたその表情は、少し思い詰めたように見えた。
「いやだったら、話さなくてもいいんだぞ」
「ううん、話すわ。そのほうがすっきりすると思うの」
セレーナははっきりとそう言った。
「……わかった。話してくれ」
「ミオンには、だいたい話したかもしれないけれど、いい?」
「……うん。聞く」
わたしはこくん、とうなずく。
恋バナとか言ってる場合じゃない。これから始まるのはセレーナの話。
セレーナにとって、一番つらくて、何より重要な話だ。
わたしたちは、布団の上に座りなおして、セレーナの言葉に耳を傾けた。
「じゃあ、話すわね」
そうしてセレーナは語り始めた。




