第六話 野宿はイヤだ!※挿絵あり
山道を登る道中、ラウダさんがこう話しかけてきた。
「しかし、ネコ族の娘とは珍しいですな」
「?」
訳が分からず返答に迷っていると、
「違うのかな? ネコ族でしょう? その耳」
ラウダさんが頭の上で耳を立てるしぐさをしてみせる。
この人、何言ってんだろう。変な人選んじゃったな……。
と、頭へ手をやって気づいた。何だか柔らかいものが、頭の両側に立っている。
力任せに引っ張って、
「痛たっ」
とうめく。
「まさか……!」
わたしは慌てて近くの泉へ駆けていって、覗き込んだ。
そこに映った自分の姿に、驚愕のあまりしばし動けない。
ナニコレ……ネコ耳生えてんじゃん……。
「何をしてるんです。ネコ族ではないのですかな?」
「い、いや、そうなんですそうなんです。例のネコ族のアレで……」
「?」
わたしは、目を閉じて深く嘆息せずにはいられなかった。
せめて、髪のセットの邪魔になんないといいけど……。
「さて、と。そろそろ準備しないと」
山の上の開けた場所へ着くなり、ラウダさんは言った。
「準備、って、ラウダさん、一体何をしているんですか?」
わたしはラウダさんに尋ねた。ラウダさんは干し肉をかじりながら妙な道具をリュックから取り出している。
「何って、就寝の準備ですよ。もう暗いですからね」
「えっ、ここで寝るの?」
愕然とするあまり、それ以上の言葉が出てこない。
「もちろんです。一応、結界用の魔石は持ってきているので安全です」
「???」
「特殊な図形を描いてこの石を置いておくと、周囲に魔物は近づけないんです」
「ほぉ……」
「はい、ミオン殿の分」
そう言うとラウダさんは、わたしにも干し肉と妙な道具を手渡してきた。
枕かな、と思ったがどうやら違う。もっと大きなものが無理やり丸め込まれているようだ。
広げてみると、背丈よりも大きく、ごわごわしてる。それは寝袋らしかった。
「寝袋……」
「さあ、食べたらとっとと寝てください」
「うう……」
キャ、キャンプよね、これは。
そう、家族とか友達とやる、楽しいキャンプだわ。
野宿じゃない。野宿じゃない。断じてこれは野宿じゃない……。
わたしはそう自分に言い聞かせた。
「どうしたんです。私もついてますから、安心して野宿してください。」
やっぱ野宿じゃん!
わたしは半ベソをかきながら寝袋に入った。
「花の女子高生が、化け物の出る山で野宿なんて……」
これも、あの高級お宿に泊まるため。そう、そのためにはこんな境遇に身をやつすのも致し方ない――。
何だか、ものすごく矛盾している気がしてきたが、幸いな事に、疲れのためかわたしはすぐ眠りに落ちた。
翌朝。
思ったよりも良く眠れた。寝袋から出て、うーん、と大きく伸びをする。
すると、ラウダさんが近寄ってきて、不思議そうに言った。
「ミオンさん、昨日の夜中、一体何をしとったんですか?」
「え? 昨日? 何のこと?」
「いや……夜中にあちこちうろついて、匂いを嗅いだりしておったようですが」
「……!」
わたしは速足でラウダさんから離れる。
そして小声で話した。
「ちょっとにゃあ介!」
(何ニャ? 眠いニャ)
「あなた昨日、勝手にその辺をうろうろした?」
(それが何ニャ)
「何にゃじゃないわよ! 今後、許可無くわたしの身体を使うのは禁止ですからね」
(それは理不尽というもの。ワガハイにだってやらなきゃならないことは、山ほどあるニャ)
「山ほどって、例えば何よ!」
夜の夜中に、そこらをうろつきまわらなきゃならない用事なんてないはずだった。
しかしにゃあ介は言った。
(毛づくろいもしなくちゃならニャいし、ナワバリも見回らないといけニャいし……)
「そんなことしなくていいから! ……って、あんた、ナワバリってもしかして……マーキングとかしたんじゃないでしょうね!」
マーキングとは、ネコが自分のナワバリを示すためにする行動だ。
わたしは自分が片足を上げてオシッコをひっかけて回る姿を想像し、真っ赤になった。
(うるさいニャあー。別にいいニャろ)
禁止禁止、ゼッタイ禁止ーーーっっっ!!!