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第六十六話 ゴブリン討伐1

「この辺のはずだ」


 リーゼロッテが、あたりを見回して言う。

 ルミナスの西側に、大きな森がある。


「『ドミンゴの森』と呼ばれるこの森は、広さがルミナスと同じくらいあり、木の実や果実は、採集されて売り物にもなっている。とくに、ドミンゴの実は甘く、ジューシーで人気が高い」


 リーゼロッテがすらすらと喋る。


「へえー、さすがリーゼロッテ。なんでも知ってるね」

「こんなものは、ただ本を丸暗記した、上辺だけの知識にすぎない」


 リーゼロッテはこともなげに言う。


「ううん凄いよ、わたしなんて暗記苦手で、地理とか全然だったもん」

「確かにミオンは、このあたりのことあまり詳しくないわね」


 わたしはうっかり以前の学校の教科のことのつもりで話してしまうが、リーゼロッテたちは文字通りの意味で受け取ってくれたようだ。


「あ! あれ」


 そんなことを話していると、わたしは常緑樹らしき木の上のほうにオレンジ色の実を見つけた。


「あれがドミンゴの実だ」


 わたしの指差す方を見て、リーゼロッテが言う。


「なんとか取れないかな……」


 見上げて思案していると、


「試しにちょっとやってみる」


 リーゼロッテが弓を構えた。

 矢をつがえ、弓を打ちおこし、そして…


 引き手を離したかと思うと、矢はドミンゴの実の果梗を貫いた。

 支えを射抜かれたドミンゴの実は、葉っぱをがさがさ揺らしながら降ってくると、やがてどさりと地面に落ちた。


「すごい!」


 わたしたちは思わず口にする。


「すごいよ、リーゼロッテ!あんな小さい的に当てるなんて!」


「……となりの実を狙ったんだが……」


 リーゼロッテは無表情で眼鏡をずり上げる。


「と、とにかく、あんなとこまで届くなんてすごいよ」


 わたしは落ちたドミンゴの実に駆け寄って拾い上げる。


「あ、これ! これがドミンゴの実だったんだ」


 拾い上げたそれは、ウニみたいなとげとげのついたオレンジだった。

 ルミナスの商店街でよく目にしたやつだ。


「引き手は力まず、もう少しリラックスしたほうがよいニャ」


 リーゼロッテはにゃあ介の教示を受けて、ふむふむとうなずいている。


「依頼書によると、この森にゴブリンが大量に発生しているから、ドミンゴの実を取るのに困っているみたいね」


 依頼書に書かれていた内容は、20匹以上倒せば、銀貨5枚の報酬を出す、というものだった。


「おいしいの? このドミンゴの実って」

「ええ、それはもう!」

「なんだ、ミオンは食べたことないのか?」

「食べてごらんなさいよ。おいしいわよ」


「そうなんだぁ……じゃあ、ひと口……」


 わたしはドミンゴの皮を剥きはじめる。

 突起があるから剥きにくいかとおもいきや、とげとげはおもったより柔らかく、剥き心地はみかんとそう変わらなかった。

 親指をずぶりと入れてめくっていくと、皮の中からつるんとした黄色い果肉が姿を現した。


 へぇー、みかんみたいに小袋に分かれているわけじゃないんだ。


「いただきまーす」


 わたしはがぶり、とドミンゴの実にかじりついた。


「!」

「どう?」


「……おいしい!」


 えも言われぬ味わいに、おもわず顔がほころぶ。

 ジューシーで甘い。だがそれだけでなく、甘さの中にほのかな酸味。もものような食感に、南国のフルーツのみたいな香りもする。

 果物全般に目がないわたしとしては、どうして今までこれを食べなかったんだ、と悔やみたいくらい。


「これは、討伐依頼が出されるのも……無理ないねえ!」


 しゃべりながら口いっぱいに頬張ったので、最後は「むひあいれえ!」みたいになってしまった。


「ミオン、お行儀が悪いわよ」


 セレーナはそう言うが、顔は笑っている。


「んむー! らっておいしーんだもん。リーゼロッテ、もっと採って!」


 わたしがそう言うと、


「目的が変わってきているぞ」


 とにゃあ介にたしなめられる。


「えへ、そだね。まじめにゴブリン探そう」


 わたしはそう答えたが、手からドミンゴの実は決して離さなかった。




   ◆




「見当たらないねえ、ゴブリン」

「ふむ……」

「でも、この辺りに大量発生しているはずなのよ。もう少し探してみましょう」


 わたしたちはゴブリンを探して森の中を進んだ。

 右も左もドミンゴの木ばかり。しかしゴブリンの姿はない。

 しばらく歩きまわっていると、


「む? 今のは何だ?」


 わたしの肩の上にいたにゃあ介が、ぴょん、と飛び降りる。


「どうしたの、にゃあ介」

「物音がした。……こっちニャ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 わたしたちは慌ててにゃあ介についていく。

 落ち葉を踏み、ドミンゴの木の間を抜けて走って行くと……


「いた!」


 ゴブリンだった。緑の肌に、尖った耳。


「よし、倒そう!」


 わたしが短剣に手をかけると、


「まって」


 セレーナが言う。


「誰かいるわ」

「人間のようだな」

「本当だ、他のパーティみたい」


 ゴブリンの先、森の奥に、わたしたちとは別の冒険者たちがいた。


「え、あれって……」


 冒険者たちに見覚えがあった。

 アレクスと、メリッサ。それに……ケインたちだ。


 そのケインたちに向かって、さきほどのゴブリンが近づいていく。

 息荒く、肩をいからせながら。完全に戦闘体勢だ。


 ケインは、他の者たちの後ろに隠れるように、じりじりさがっている。

 そのか細く切羽詰まった声が聞こえた。


「く、く……来るなッ!」


 剣を握るケインの手は、ぶるぶると震えている。


 ケインのかわりに、アレクスとメリッサが前に進み出る。

 二人は両側へ素早く足を走らせると、ゴブリンに向かって剣を放った。

 左右から同時に攻撃が当たる。


 ゴブリンのかん高い叫びが森にこだました。


 その場にくずおれるゴブリン。

 息も絶え絶え、瀕死状態だ。

 今にも魔石化する、と思われたそのとき。


「わああッ!」


 ケインが大声を上げながら飛び出し、斬りかかった。

 その剣がゴブリンの頭部にヒットし(偶然当たったようにも見えた)――ゴブリンは絶命した。


「はぁっ、はぁっ」


 肩で息をつくケイン。


「……やった」


 魔石化するゴブリンを見て、言う。

 そして笑い出す。


「おい見たか、やったぞ!」

「おお、やるじゃないか」

「すごいでやんす」


 ケインはヤンとチェフにおだてられて、気分よさげに笑い続けている。アレクスとメリッサは苦笑いしている。

 それを遠巻きに眺めていると、


「あら、そこにいるあなたたちは……?」


 メリッサが、こちらに向かって言う。どうやら見つかってしまったようだ。


「あ、どうも」

「あなたたちもゴブリン狩りに?」

「はい、ギルドの依頼を……」


 わたしが口を開きかけると、


「ハハーッ!」


 ケインが、居丈高にふんぞり返る。

 そして、こちらへ向かって早足で歩き、得意げに剣を握る手を振り回しながらまくしたてた。


「おそい、おそい! ゴブリンなど、今やっつけた。僕が倒したんだ!」

「うん、ちょうど見てたよ」

「そうだろうそうだろう! この辺のゴブリンは僕が一掃する。お前たちは帰っておとなしくしてるんだな!」


「う、うん……」


 さっきとどめを刺したことで自信がついたのかな。油断しなければいいんだけど。


(あの小僧はともかく、アレクスとメリッサの二人は見たところラウダと同じ程度の力量はあるニャ)


 にゃあ介が小声で言う。今はわたしの肩でぬいぐるみのふりをしている。

 

 ……てことはDランクくらい? なら大丈夫かな。


「じゃあ頑張ってね」


 ちょっと心配だけど、わたしたちはそれだけ言ってその場をあとにした。


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