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第六十五話 ギルド討伐依頼

「よーし、討伐依頼、請けよう!」

「ええ」

「ああ」


 わたしは何度となく入ったことのある扉の前で、気合を入れなおす。

 扉の上には、ギルドのマークの入った看板。

 そしてわたしたちは、扉の中へと足を踏み入れる。

 とたんに、ガヤガヤと言う話し声とお酒の匂いが迫りきて、わたしたちを迎えてくれる。


 あれ、受付にリンコさんがいない?

 と思って近くまで歩いて行くと、カウンターの下からもじゃもじゃ頭がぴょこんっと飛び出してきた。


「いらっしゃいませー! ミオンさん、セレーナさん……リーゼロッテさんですね!」


 つやつやほっぺとつやつやほっぺの真ん中にある真っ赤な口を大きく開けて、リンコさんが挨拶する。

 わたしとセレーナの名前を覚えてくれていたのを嬉しく思うと同時に、一度しか来ていないリーゼロッテの名前も覚えているのに驚いた。


「職業柄、名前を覚えるのは得意なんですよ!」


 顔に出ていたのか、リンコさんはメモをとる仕草でそう笑った。


「こんにちは、リンコさん。今日はちょっと、討伐依頼を拝見させてもらいに来ましたー」


「そうですか!」


 リンコさんはうれしそうに言うと、


「依頼が溜まっちゃって、溜まっちゃって……どれでも好きなものを請け負ってください!」


 と、両手に羊皮紙を抱えて目をぐるりと回す。どうやらさっきは、カウンターの下に落ちた依頼書の束を拾いあげていたみたい。

 そして、こうつけ加える。


「成功報酬になってますので、討伐に成功したら、魔石か素材を持ってまたここへ報告に来てくださいね!」


「わかりました!」


 そう返事をして、わたしたちはギルド奥の、大量に貼り紙のある壁の前へと向かう。

 そこには何人かの他の冒険者たちも、壁を見上げてたむろしていた。

 真新しい鎧を身に纏った少年が、腰に手を当ててそのどまん中を牛耳っている。

 よく見えないので、わたしたちにも前をあけてくれるようお願いしようとした。だが。


「すみません、見せてくださ……えっ?」


 ゆっくりと振り返ったその少年を見て、わたしは驚いた。


「け、ケイン?」


 撫でつけたブロンド、気取って突き出したあご……間違いなくケインだった。

 わたしが驚いて固まっていると、ケインは不敵な笑みを浮かべ、言った。


「お前らにできて、僕にできないはずがない」


「え……?」


「僕たちも冒険者登録した」


「僕たち?」


 見ると、ケインの他に、ヤンとチェフの二人も立っている。


「お前たちみたいな劣等生に僕が負けるわけがない」


 ケインの言葉に、チェフが馬鹿みたいに笑う。ヤンはずっとにやにやしている。

 ケインと、ヤン、チェフの三人はいつもつるんで一緒にいる。このあいだの、ウィザーディング・コンテストのときも、この三人組だった。


 チェフは太っていていて、ケインより二回りも大きい。その身体で周りを威圧するのが目的で、ケインはチェフを手下にしたらしい。

 ヤンは痩せた男で、みんなのあいだでは、嫌味なヤツと言われている。

 髪の毛を後ろにひっつめて、いつもケインの隣にいる。参謀みたいな役割だろうか、とわたしは思った。


 そして、ケインのうしろには、大人の冒険者らしき男と女のコンビが立って、こちらを興味深そうに見ていた。


「この人たちは?」


「君たち、ケインの友達かい? 俺はアレクス。よろしく!」


 コンビの男のほうが言う。金髪で優男風だが、銀色の鎧に包まれた体躯はけっこう強そうだ。


「わたしはメリッサ。あらあら、可愛らしい3人組パーティね!」


 女のほうが言う。こちらも、身軽さを重視した軽装の鎧から覗く腹筋から、それなりの手練と感じさせる。



「はっ!」


 ケインは得意げに言った。


「ぼくとパーティを組んだのさ!」


「パーティ……?」


 アレクスと名乗った男が、腰に手を当て少しかがみながら悪気のない笑顔でわたしに話しかける。


「よかったら君たちにも手を貸そうかい? もちろん、相応の報酬を貰うけどね!」


 セレーナがわたしの横でささやく。


「きっとお金でやとったのね。あの子、一応、貴族の子みたいだから」


「え? ケインて貴族だったの?」


 ぜんぜん知らなかった。でもたしかに言われてみれば、なりだけは、貴族っぽいかも。


「たしか、ゲーゼンハロック家の……」


 セレーナが言うと、ケインは目を細め、ますますあごを突き出しながら、


「おい、そこの。ヴィクトリアス家の女」


 と言った。まるでセレーナを自分の召使いみたいに呼ぶ。


「おまえも貴族の出だろう。そんな獣人とつるんでないで、こっちにきたらどうだ? 僕の下につけば、今後、目をかけてやらんでもないぞ」


 セレーナは無表情な目でケインを見ている。


「とにかく」


 ケインが言った。


「誰であろうと、僕に敵対するものは、きっと後悔するさ」


 敵対した覚え、ないんですケド……。わたしは思った。

 もっと言えば、あんまり関わりあいになりたくない、というか、そこまで意識したこともないっていうか……。


 そんな風に考えていると、ケインはこう言い放った。


「これでわかったろう。自分たちだけが特別だと思うなよ」


「別にそんなこと思って……」


「ミオン、もういいわ。放っておきましょう」


 セレーナは盛大にため息をついている。

 リーゼロッテに至っては、はじめから眼中にないみたいにガン無視して、貼り紙の方を見ている。


 そんなわたしたちを見て、ケインは、


「くっくっ、驚いてまともに言い返すこともできないみたいだな」


 と、満足そうにうなずいた。


「僕たちが討伐依頼を、片っぱしからやっつけてやるぜ」


 わたしは、


「き、気をつけてね……」


 と言うのが精一杯だった。




 ケインたちは、意気揚々とギルドから引き上げていった。

 それを見送って、わたしがセレーナとリーゼロッテの方に向き直ると、


「どの依頼を請けようか」

「そうね……」


 と、話し込んでいる。


 うわ、二人とも、完全に今の出来事をスルーしてる。


(ミオンもはやく依頼書を選ぶニャ)


「にゃ、にゃあ介まで!?」


 ちょっとばかし、ケインに同情がわきそうになるが、負けずにわたしもスルーすることにした。

 うん、なんにもなかったなんにもなかった!


「さて」


 わたしは壁の隅っこに追いやられている、一枚の貼り紙を指さして言った。


「やっぱり最初は、ゴブリン討伐くらいかな?」


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