第六十二話 武器屋にて2
右目に黒い眼帯をつけたその店長は、スキンヘッドで筋肉隆々の、異様にイカツイ顔つきの男の人だった。
眼帯をしていない方の目が、ぐるり、とわたしを睨む。
「あん?」
……めちゃくちゃこわい。
眼帯の黒さが、異様な圧迫感を放っている。
何とか眼帯から目をそらす。
しかし、今度は左目の射るような視線に、凍り付く。
なんでこんなこわい人が、お店やってるの?
「あ、あの……」
「何だ」
足がすくむ。……でも。
こわいけど、人間だ。
悪魔と対峙したときよりましでしょ。
そもそもわたし、客なんだし!
わたしは勇気を出して、訊いた。
「初心者向けの弓が欲しいんですけど……」
「初心者向けだと?」
組んでいた腕を解き、店長がすっくと立ち上がる。
わたしは尻もちをつきそうになりながら見上げる。身長2メートルはある。
「初心者がオレの店に……?」
――まずい。初心者おことわりのお店だったんだろうか。
わたしは、この隻眼の店長がネコの首根っこを掴むみたいにわたしを外に放り出すに違いないと思った。
だが、店長の口からはさらに予想外の言葉が飛び出した。
「どいつから殺されたい?」
……え、今、なんて? 口がぽかんと開いた。
店長はカウンターの後ろにかかっている剣を手に取り、こちらに向き直った。
「まて」
ガーリンさんが、ずいっと前へ出て言う。
「死ぬのはお前の方だ。ワシの斧の錆にしてくれる」
二人は一寸睨み合ったかと思うと、同時にお互いの武器を振り上げた。
ガーリンさんの斧と店長の剣がぶつかり、がちん、と音を立てる。
つばぜり合いの腕に力がこもり、二人はぐいぐいと押し合う――。
「ご、ごめんなさい。すぐに帰ります。どうか殺さないで!」
わたしは涙目で二人の間に割って入る。
すると、
「プッ」
「ブハハ!」
店長とガーリンさんは同時に吹き出す。
わたしが訳がわからないまま、呆然としていると、
二人はお互いの肩をガシガシと叩き合い、こう言ったのだった。
「相変わらずの怪力だな、ハロルド!」
「そっちこそ力はおとろえていないようだな、ガーリン!」
◆
「もう、人が悪いよ、ガーリンさんは」
わたしはぷんすか怒っていた。
「知り合いなら知り合いと言ってよね」
「すまんすまん。ワシらは昔っからの悪友でな。二人で悪ふざけばっかりしていたもんだ」
「悪かったな。三人とも」
店長はそう謝ると、わたしたち三人を順に見ながら言った。
「ところで、誰が弓を使うんだ?」
「あ、ああ、私だが……」
リーゼロッテが答える。
「ふむ。その身長で、初心者用なら……」
スタスタ、と店長は店の中を歩く。
「これか、これ。……あと、これ」
店長は素早く弓を選んでいく。
「まあ、これは値が張るからないだろう。手頃なのは、これかこれだ」
「うむ、ええと……」
リーゼロッテが決めきれずにいると、
「……おすすめはこっちだ」
と、助け船まで出してくれる店長。
……めちゃくちゃ優しいじゃん。
「じゃ、じゃあ、これを」
「これがいいだろうな。威力も連射力もそこそこ、初心者でも扱いやすい」
それは、アルファベットのBをゆるやかにしたような形で、茶色い木の色が優しい、シンプルな弓だった。
「矢は安いのをまけておく」
店長は言った。
「もっと強い弓もあるが、初心者には難しい。慣れてから買い換えた方がいい」
「ふむ……確かに軽くてわたしにも扱い易そうだ」
リーゼロッテは渡された弓を手に持って、いろんな角度から眺めている。
そんな様子を見ていた店長は、おもむろに言った。
「おまえたち、魔法学校の生徒のようだが、冒険者ではないのか?」
「あ……」
わたしとセレーナは顔を見合わせる。リーゼロッテを見ると、彼女はきょとん、としている。
セレーナと声を揃えて言う。
「両方です!」
リーゼロッテの手を取って、わたしは言った。
「これから、リーゼロッテの冒険者登録に行くんです!」
「え……」
「ね、リーゼロッテ。そうしよう!」




