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第六十一話 武器屋にて1

「と、いうわけで、この子に弓を買いたいんですけど……」


 わたしはリーゼロッテを指して言う。


「ガーリンさんなら、もしかしたら見識がおありではないかと思いまして」


 セレーナもそう訊ねる。リーゼロッテは、


「どうかよろしく」


 と頭を下げる。


 目をパチクリさせていたガーリンさんは、


「ガハハ! そういうことなら任せとけ」


 と胸を拳で思いっきり叩く。その樽のような体にボーンと音が響いた。


「こう見えても、昔は武器鍛冶屋を志しとったんだ」

「ホント!?」

「ああ。だが、ちょっと怪我をしてな……。この可愛い手の野郎がいうことを聞かなくなっちまった」


 ガーリンさんは右手をプラプラと振って、


「途方に暮れとったところを、ガーナデューフ校長に拾われたんだ。それでルミナスの守衛を任された。名誉なこった」


 ガーリンさんは、ちょっと考えて、こう言った。


「よし。時計台を直すのを手伝ってくれた礼だ。弓選びに付き合ってやろう!」



   ◆



 学園都市ルミナスの商業地区は、相変わらず活気に満ちていた。

 建ち並んだ店先には、干し肉やチーズといった保存食や、色とりどりの毛布が派手に陳列され、迫り来る冬への備えを感じさせる。


 ガーリンさんはというと、そんな往来に目をやることなく、ずんずん進んでいく。

 小さな体に似合わず歩くのが速いので、わたしたちは小走りになってその後をついていく。


「ようガーリン、学生の引率かい?」

「がはは。まあそんなところだ」


 通りを歩いていると、街の人からたびたび声を掛けられた。ガーリンさんって、意外と顔が広いのかな?

 ガーリンさんはその都度手をあげてはひげを撫でながら挨拶を交わしていた。


 しばらく歩くと、通りには食料品店や日用品店にかわって道具屋や武器・防具屋などが増えてくる。

 この街は魔法学校を中心に放射状に広がっている。学校に近い内側はこの街の居住者や学生、街の外側は冒険者向けの店が多いのだ。


「おう、ここだ」


 ガーリンさんが一軒のお店の前で止まる。

 ふつうのお店三軒分はある大きな武器屋さんで、この界隈では最も人の出入りが激しいようだ。

 なかなか繁盛しているみたい。




 店へ入ると、壁に陳列された槍の数々が目に入った。

 鋭く研ぎ澄まされた、銀色の槍は、見ているだけで自分が強くなった気分になる。


「かっこいいなあ……わっ」


 槍に見とれていると、置いてあった傘立てにつまづきそうになる。


「……いや、これ傘立てじゃないや」


 筒状の入れ物に立てられているのは、傘ではなく、何十本もの剣だった。

 どうやらこっちは安物らしく、結構雑に突っ込んである。


「でも、掘り出し物もあったりして」


 わたしが剣を物色しようとしていると、にゃあ介にたしなめられた。


(剣を買いに来たんじゃニャいだろう)


「そうだった。てへ」





「どんな弓がいいかな?」


 弓のコーナーには多種多様な弓と矢が揃っていた。


 長い弓、短い弓、いろいろな装飾が施された豪華なものや、シンプルなもの、自動で打ち出す機械仕掛けの弓なんてのもある。


「困ったな。弓の本も読んだことはあるにはあるが、いざ選ぶとなるとまったく見当もつかない……」


 眉根を寄せるリーゼロッテ。

 すると、ガーリンさんがモジャモジャの髭を触りながらこう言った。


「ワシには少し知識がある」

「わー、ガーリンさん、心強い!」


 手を叩いて、わたしはガーリンさんに訊ねる。


「どれがいいのかな? やっぱり、機械仕掛けのやつかしら?」


 機械仕掛けなら、腕力がいらないから打つの楽だよね。


「うんにゃ。一慨にそうとは言えない」

「え、何でですか?」


「機械式の欠点は連射ができないことだ」


「そうなんだ……」


「あの構造からみて、一発打ったあと次の矢を準備するのに相当時間がかかるだろうな」


「ふーん」

「そうなんですね」

「なるほど」


 わたしたちは感心してガーリンさんの説明を聞く。


「一方、手で打つ方式なら、連射が可能な上、普段の手入れも簡単だ。習熟すれば機械式を使うより強いわな」


「じゃ、決まりね。手で打つタイプ!」


「オイオイ、習熟すれば、だぞ」


「習熟します! ね、リーゼロッテ」

「あ、ああ……頑張るしかないな」


「えっと、じゃあ、どれですか?」


「んが?」


「どれが一番いい弓なんですか?」


 ガーリンさんは、そのごつい右手で鉄の兜の上から頭をポリポリと掻きながら、こう言った。


「こりゃあ困った。さすがにそこまでの知識は持ちあわせておらん」


 わたしは頬を少し膨らませて、「エー」とカエルみたいな声を出した。


「何でも知ってると思った」


 ガーリンさんはガッハッハと笑うと、


「何せ、武器鍛冶を目指しとったのは、もう大分前のことだしなあ」


 ガーリンさんは前に向き直ると、言った。 


「だが心配はいらん。知っとるヤツに訊きゃ、ええんだ」


 そしてゆっくりと店の入り口の方へ引き返していく。


「あっ、そうか」


 わたしは納得する。カウンターにはたしか、この店の店長らしきおじさんが座っていたはずだ。

 武器屋の店長はもちろん、武器のプロなんだから、弓のことだって詳しいはずだよね。


 わたしはあわててガーリンさんを追う。

 カウンターのところでガーリンさんを追い越して、大声で言った。


「おじさーん、教えて欲しいんですけど」


 そのときはじめてカウンターに座っている店長をはっきりと見た。


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