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第六十話 あたらしい武器

「何故ニャ!? 何故この姿で学校へ行ってはいけないニャ!?」


 岩場での精神遠隔魔法の実験は大成功した。

 その帰り、不服そうなにゃあ介にわたしは言う。


「しゃべるぬいぐるみ連れて歩くわけにはいかないでしょ。自分がいつも目立つなって言ってるくせに」


「ぐぬぬ……」


「だから、ブラストスピリットは、セレーナとリーゼロッテ以外の人がいるときには使えない」


 わたしは立ち止まって、


「さあ、そろそろ戻って。にゃあ介」


「ぐう……」


 名残惜しいのか、変な呻き声を出す。


 わたしの心の中に、何かがヒュッと戻ってくる感触。

 そして、リモートゴーレムはこてん、と倒れ、ただのぬいぐるみに戻った。


 にゃあ介の声が聞こえる。


(つまらんニャ。ワガハイも教壇に立ってみたかったニャ)


 わたしは思わず言った。


「あんた、先生やるつもりだったの!?」




   ◆




「新しい武器を試したいね」


 わたしたちは放課後、校庭の木陰に座り、そんな話をしていた。

 ときおり吹く風が、リーゼロッテの手元の羊皮紙を揺らしていく。


 大会で手に入れた賞品、ルミナスブレード。それを早く使ってみたかった。


「そうね。私もイヤリングの効果をみてみたい。今日、これからあの洞窟に行ってみる?」

「ワイナツムの洞窟?」


 ワイナツムの洞窟は、しばらく前にセレーナと二人で魔法の実践練習をしに行った洞窟だ。

 あのときは、セレーナが怪我をして、引き上げたのだった。


「……私も行っていいか?」


 リーゼロッテが、唐突にそう言った。


「うん、もちろん」


 わたしがそう答えると、リーゼロッテはどこか思案げに頷いた。




 わたしたちは、ワイナツムの洞窟へ行って、新しい武器を試すことにした。


 前にセレーナと共に通った道を、今回はリーゼロッテを加えた三人で向かう。


 ……あ、見た目的にはもうひとり(一匹?)増えてるけど。


「ワガハイも自由に動けるし、他の人間のいないところはよい」


 わたしたちの周りをポムポム跳ねまわるにゃあ介。


 羊の群れのような雲が、冷たさの混じった風に追い立てられてゆっくりと流れる。

 そんな牧歌的な風景を行軍する、4つの影。

 日はまだ高い。


 山あいの道を暫く行くと、岩肌にぽっかりと口を開けた黒い穴が見えてくる。


「あそこよ」

「ふむ、これがワイナツムの洞窟……」


 リーゼロッテがつぶやく。


「ギルドで教えてもらったの。リンコさんって人に」


 洞窟へ入ると、セレーナが言った。


「早速、魔法を試してみていい?」

「うん。やってみてやってみて」


 セレーナは両手を構えると、炎の魔法を詠唱する。


「我求めん、汝の業、天に麗ること能わん……」


「わっ」


 セレーナの手から発生した炎の玉は以前と比べ物にならないほど大きかった。


「ダークフレイム!」


 洞窟の奥へ飛んだ炎が、壁で弾ける。

 それを見て、セレーナは言った。


「このイヤリング……すごい威力だわ」




 ルミナスブレードの威力も凄まじかった。


 今わたしはスライム相手に剣をふるっているが、まるで、絹ごし豆腐を切っているような感触。


「すごい! すかすか切れるよ?」


 調子に乗って走り回り、気がつくと十数体も切っていた。

 これが、『本物』の剣なんだわ。わたしはその切れ味に、感動した。




「ちょっと、ミオン、敵を一掃しちゃわないで」


 セレーナがそう言って、剣を構える。


「見ていて下さい、にゃあ介さん」


 セレーナの剣が一閃、スライムを両断する。

 そして、にゃあ介の方を向き直り、言う。


「あれから基礎を勉強しているんですが、確かに剣の基礎には戦いのエッセンスが詰まっている気がします」


「ふむ、そのとおり。そして基礎を叩き込むことこそが、応用力を上げる近道ニャ」

「はい。これからも精進します」


 そのときだった。突然、リーゼロッテが、叫ぶように言った。


「私にも教えてくれ!」


「ニャんだ?」


 にゃあ介が訊き返す。


「戦い方を教えてくれ、師匠、頼む!」


「し、師匠?」


 わたしは耳を疑う。リーゼロッテはにゃあ介を師匠と呼ぶの?


「……お主には、知識がある」


 にゃあ介は言う。


「知識は武器にニャる」


「ああ、そうかもしれない。……だが、知識だけでは意味が無いことがわかった。あの大会で悟った」


 リーゼロッテは滔々と述べた。


「大事なのは、その知識を生かすことだ。今のままでは、死んだ知識でしかない」


 眼鏡の奥のその目に力がこもる。


「私も強くなりたい。ミオンやセレーナと一緒に戦えるようになりたいんだ」

「リーゼロッテ……」


 わたしは複雑な思いでリーゼロッテを見つめる。


 リーゼロッテの気持ちは嬉しかった。

 けれど、戦うとなれば、危険も増す。


「よかろう!」


 にゃあ介が言った。


「だが、ワガハイの教えは甘くニャいぞ」


「それは望むところ! 全力で私を鍛えてくれ、師匠!」


 リーゼロッテは嬉しそうに言った。


 うーん、師匠ってのが、どうもしっくりこない。


 いや、そんなことよりも、やっぱり危険だわ。

 わたしはセレーナと顔を見合わせる。


「でも、にゃあ介。いきなり戦闘に参加したら、怪我をするんじゃ……」


 わたしが言うと、にゃあ介が、


「戦いは接近戦だけではニャい。近接戦闘が苦手ニャら、遠距離から攻撃する手もある」


「と、いうと?」


 リーゼロッテが訊き返す。


「弓なんて、どうかニャ?」


「弓? しかし……」


 言いよどむリーゼロッテ。


「ちょっとにゃあ介、それいい!」


 わたしは叫んだ。

 弓なら安全な気がする。そして、それより何より、ぴったりはまる感じだ。

 にゃあ介、いいこと言う!


「何かすごいしっくりきた。リーゼロッテ、弓、絶対似合うよ」


「私もそう思った! リーゼロッテが弓を構えているところが、何故か頭に浮かんできたわ」


 セレーナが同意する


「弓か……」


 リーゼロッテはそうつぶやき、こくり、とうなずく。


「やってみるか」


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