第六百四話 王都への帰還
王都の城壁が見えると、わたしたちは足を止めた。
美しかった白い城壁は焼け焦げ、所々崩れ落ちている。
街では、あちらこちらから煙が上がっていた。
「グランパレスの街が……」
わたしたちは早足になる。
城門へ近づくわたしたちの姿を認めると、門兵の一人が叫んだ。
「止まれ!」
周囲の兵たちも身構える。
槍や矢が、一斉にこちらへ向けられる。
「わわわ……ちょ、ちょっと待って」
わたしは焦る。
せっかく魔族領から無事に帰って来たのに、王都で人間たちにやられたら、冗談にもならない。
「武器を収めてください」
セレーナが一歩進み出て、はっきりと言う。
「魔王は、休戦を約束しました。もう戦いは起こりません」
「なに?」
兵たちの顔に、不審げな表情が浮かぶ。
「何を言ってる?」
「休戦だって?」
ざわめきが広がる。
と、門より、隊長格らしい兵士が出てくる。
「ラウル騎士団長……」
兵たちは道を開ける。
ラウルは、信じられない様子で、
「セレーナ嬢、何と申した? 休戦ですと……?」
と話す。
「ええ。魔王と直接会って、約束を交わしてきました」
「な……!?」
ラウルは目を見開き、
「セレーナ嬢、一体どういう……」
「ごめんなさい、詳しい話はあとで……家族の安全を確かめたいんです」
わたしたちは取り囲む兵士たちをかきわけるようにして、進んでいく。
「すいません、また後で王宮に出向きますから!」
わたしたちは唖然とするラウルと兵士たちを後目に、城門の中のグランパレスの街へと駆けていく。
◆
「セレーナさま!!」
セレーナの姿を見つけるや否や、チコリがセレーナの胸に飛び込んできた。
「ただいま、チコリ。無事だった?」
「セレーナさま……!」
チコリは顔を上げると、
「あのね、セレーナさま。魔族たちが王都へ攻めてきたの」
と言う。
「怖かった……。あたし、ユリナさんにしがみついて、震えてたの。魔族はあちこちを壊して回ったの」
「いよいよこの家に魔族たちが迫ってきたとき、あたしは剣を手に取って覚悟したの。セレーナさまの家を守るために戦おう、って……」
チコリは不思議そうに、
「そしたら突然、魔族たちが、攻撃するのをやめて、取って返していってしまったの」
そう言ってセレーナを見上げる。
「いったい何があったのかしら……」
セレーナはチコリの頭に手をやり、
「もう大丈夫よ。魔族は攻めてこないから」
「セレーナさま?」
わたしは言う。
「あのね、チコリ。わたしたち、魔王と休戦を約束してきたんだよ」
「ええっ!?」
まだセレーナに抱き着いたままのチコリは、目を丸くする。
「ほ、本当ですか? セレーナさま」
セレーナは微笑んでうなずく。
「まあ一応はね」
チコリの顔が、畏敬の念に満ちる。
「セレーナさま……。セレーナさまは本当の勇者です……!」
「やめてよ、チコリ。なんだか、魔王の方から、一方的に約束を結んできたようなものなの」
と言うセレーナ。
そんなセレーナに対して、
「ああセレーナさま……」
今にも足下にひざまずきそうなチコリだった。




