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第五百九十二話 レイス1

「やあっ!!」


 わたしは短剣を手に、迫りくる魔物の群れに躍り込む。

 黒い血を浴びながら、滑るように身を翻し、喉を裂き、腕を斬り払う。


「えいっ! はっ!」


 刃が閃くたび、魔物たちが次々と崩れ落ちていく。


 わたしの背後で、弓を構えたリーゼロッテが、冷静に矢を放つ。

 矢は空気を切り裂き、魔物の額や喉を正確に貫いていく。

 ときおり魔物が間近まで迫るが、彼女は一歩も退かずに無言で標的を撃ち抜く。


「なるほど……悪くはない」


 魔族の男、レイスが言う。


「人間にしては、だが」


 今のところ、レイスは高見の見物を決め込んでいるようだ。

 広間の奥にある、燭台の置かれた段差に腰かけ、つまらなそうにこちらを眺めている。


 腹は立つ……が、こっちとしてはありがたくもある。


「まだ来るよ、リーゼロッテ」

「ああ……全部片づけてやる」


 わたしたちの息は乱れながらも、見事に噛み合っていた。

 短剣が切り裂く隙を、矢が補う。弓が牽制する瞬間に、刃が突き込む。



 しかし、魔物は次々と現れる。どれだけ倒してもきりがなかった。


 そうこうしているうちに、とうとう……


「そろそろ見物にも飽きた。……相手をしてやるとしよう」


 レイスが重い腰を上げる。

 金色の瞳が、わたしたちを見据える。


 ゆっくりと歩きながら、すらり、と長剣を抜く。

 その瞬間、周囲の魔物たちまで、怯えておとなしくなる。


 静寂が降りる。


 わたしは短剣を握り直し、荒い息を整える。

 リーゼロッテは弓を持つ手をわずかに震わせながらも、目を逸らさない。


「……ようやく、あんたが相手ってわけだね」

「恐れを知らぬ小娘め。いい――その瞳、砕きがいがある」




   ◆




 レイスが一歩踏み出すごとに、空気が軋む。

 あんなにやる気のなさそうな歩き方なのに――恐ろしい程の、圧を放っている。


 レイスが長剣を振り上げた瞬間、空気が裂けた。

 重い風圧が襲い、わたしの髪が、ぶわっと舞い上がる。


「くっ!」


 鋭い一閃。

 受け止めた短剣が火花を散らし、衝撃で腕が痺れる。


 隙を見て、リーゼロッテが矢を放つ。

 ……が、レイスは首を傾けただけで避ける。

 矢は背後の石壁に突き刺さり、粉塵を散らす。


「くそっ」

「リーゼロッテ、撃ち続けて!」


 わたしの言葉に呼応して、リーゼロッテは連射を始める。

 わたしは低く身をかがめて、長剣の間合いに飛び込む。

 渾身の突きを繰り出す――だが、長剣がわずかに動き、刃がはじかれる。


「悪くない。だが、軽いな」


 レイスが剣を振る。まずい――


「させない!」


 リーゼロッテが至近距離へ詰め、レイスの肩口を狙う。


 レイスは矢を見もせずに長剣を薙ぐ。

 弧を描いた一撃が、床を削り、衝撃波がわたしたち二人を吹き飛ばす。


「うあっ!!」


 背中を打ちつけ、息が詰まる。

 立ち上がる間もなく、レイスの影が迫る。


 わたしと同じように、石の床に叩きつけられたリーゼロッテが、矢をつがえようと背中へ手を伸ばす。

 リーゼロッテの手は震えている。


 わたしは短剣を構える。

 わたしの手も、震えていた。


 レイスの長剣が、高く振り上げられる。

 もう、逃げ場はない――


 レイスの冷たい声が響く。


「終わりだ」


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