表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
586/606

第五百八十五話 魔王の城へ3

 魔族の男は、わたしについてくるように言って、歩き始めた。

 わたしは少し距離をおいて、彼の後を歩いていく。


 これから魔王城へ向かおうというのに、魔族の男にどこかへ案内されるなんて……


「なんか変なことになっちゃった。どうしよう……」


 わたしが困って後ろを振り返ると、


「あっ!」


 すこし向こうの方に、セレーナとリーゼロッテの姿が見えた。

 わたしの戻りが遅いのを心配して、探しに来てくれたのだろう。


 と、


「お前、名前は?」


 魔族の男が言う。

 わたしは慌てて、後ろにいる二人に向かって、ジェスチャーで隠れるよう示す。

 セレーナとリーゼロッテは、さっと木陰に隠れる。


「名前は?」


 男が振り返る。


「…………」


 わたしが二人のほうを気にしていると、


「なんだ? 口がきけないのか?」

「えっ? あっ、み、ミオンです」


 わたしは答える。


「迷子のミオンか。ネコ族にしちゃ、悪くない名だ」


 不意に訊かれたので名前を答えてしまったが、黙っていた方がよかっただろうか。


 男はどんどん歩いて行く。

 セレーナとリーゼロッテは、わたしの身振り手振りから、隠れていろという意図をくみ取ったのだろう。

 見つからないように隠れながら、わたしの後をついてきているようだ。


 わたしはそのまま男についていく。




   ◆




 魔族の村は、山の麓にあった。

 わらぶき屋根の家々が点々と並び、その周りに畑が広がっている。


 わたしの目の前には木でできた簡単な柵がある。

 これが村の入り口になっているようだ。


 村に足を踏み入れる瞬間、緊張感が走る。

 魔族の村……。

 もしかしたら、わたし、このまま八つ裂きにされるんじゃ。


「逃げた方がいいかな……」


 わたしはにゃあ介に小声でささやく。


「ま、大丈夫ニャろ。むしろ今逃げ出したほうが逆に怪しまれるニャ」


 肩の上のにゃあ介は呑気にそう言うが、わたしは気が気じゃなくなって、後ろを振り返る。

 リーゼロッテとセレーナは、ちゃんとついてきてくれているだろうか。


 ここからではよくわからない。だが、二人がわたしを見捨てるはずない。近くにいるはずだ。

 覚悟を決めて、わたしは男について行くことにした。


 わたしは男の後ろで、なるべく目立たないように体を小さくしながら歩いていく。


 村の中の道を、男について進む。

 途中、畑仕事をしているらしき魔族の男が、ちら、とこちらを見るが、特に気にするようでもない様子だ。


 やがて男が、一軒の家の前で立ち止まる。


「ここが俺の家だ。入れ」


 男に促され、わたしはその中へと足を踏み入れる。


 家の中も外見に違わず、簡素な造りだった。

 簡素ではあるが、部屋はいくつかあるようだ。

 その中の一室に通されると、


「そこに座って待ってろ」


 男はそう言って部屋を出ていく。

 木製の椅子や机がある様子をみると、ここは居間かダイニングのようだ。


 男が少しして戻ってくる。


「ほら」


 男は何かをわたしに投げてよこす。

 取り落としそうになりながら、なんとかそれをキャッチする。


「食い物だ。やるよ」


 それは、焼いたパンだった。


 一瞬固まるわたし。


「あ、ありがとう」


 わたしはパンを手に、頭を下げる。


「…………」


 男はこちらを見て、黙っている。


「あの、何か?」


 わたしが訊くと、男は、


「食わないのか?」


 と言った。


「腹が減ってるんだろう?」


 わたしは手元のパンに目をやる。

 固いけれど、ちゃんと食べれる物みたいだ。

 一口かじってみる。


「あ、けっこうおいしい」


 食べれるどころか、フランスパンみたいで、かなり美味しかった。


「はむっ」


 かじりついて、そのままぺろりと平らげる。


 男はそんなわたしをじっと見ている。

 そして、もう一度部屋を出ていく。


 やがて戻ってきた男は、パンをもう二切れ持っていた。


「ほれ、これをやるから、早く自分の村へ帰れ」


 わたしは、黙って男が差し出すパンを見つめる。


「どうした?」


「あの……どうして?」

「何がだ?」


 男はそう訊ねてから、


「どうして、……わたしにパンをくれるの?」

「ああ……。俺はお前がネコ族だからといって、何とも思わん」


 と話す。


「他の魔族の中には、奴隷にしたがるようなやつもいるがな」


 そう言ってフンと鼻を鳴らす。


「さあ、わかったらこれを持ってさっさと村へ帰れ」




   ◆




 魔族の村を出て、元の小川を目指して歩く。


 少し行くと、木陰から、セレーナとリーゼロッテが飛び出してきた。


「大丈夫? ミオン」

「おどろいたぞ。帰りが遅いので見に来たら、まさか魔族に捕まっていたなんて」


「ううん、捕まったんじゃなくて……」


 わたしは首を振る。


「パンをくれたの」


 セレーナとリーゼロッテは、わたしが手に持っているパンに目を向ける。

 二人とも驚いた顔をする。



 わたしは歩きながら、先ほどあったことを二人に話す。


「わたし、わかんないな。……魔族ってあんなに親切なの?」


 リーゼロッテが言う。


「うーん……ただ単に、珍しい魔族に出会った、というわけではなさそうだな」


 セレーナがにゃあ介に、


「ミル、私たちが戦ってきた魔族のイメージと、あまりに違わないかしら?」


 と訊ねる。


「……ふむ。魔族と人間はいがみ合っている」


 にゃあ介は言う。そして、


「だが、ネコ族のような中立の存在を相手にした場合には、そう違いはないのかもしれニャい」


 こう続ける。


「……魔族も、人間もニャ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ