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第五百八十四話 魔王の城へ2

 人の手の入っていない原野を、わたしたちは三人、縦になって進む。

 比較的なだらかな地形だが、草が生い茂り、視界はあまりよくない。


 ここは魔族領だ。

 白昼堂々と道を歩いていくわけにはいかない。

 森や茂みに身を隠しつつ慎重に進んでいかなくてはいけない。


 わたしたちは、地図と太陽の位置だけを頼りに、ひたすら歩いた。



 何時間……いや、何日歩いただろうか?

 やがてなだらかな地形は終わりを告げた。


 行く手には、山。


「魔王城と目星をつけた場所へ行くには、この山を越えなければならない」


 起伏の激しい岩場や、深く茂る木々。

 山はその峰に雪を頂いている。


「ここを突っ切る」

「迂回しちゃいけないの?」


 わたしが訊くと、リーゼロッテは首を振る。


「魔族の村がある。見つかりたくなければ、山を行くしかない」


 リーゼロッテが地図を指さす。


「山を越えて、谷を抜ければ、魔王城だ」


 わたしたちは、眼前にそびえる山を見上げる。


「この山を越えるのか……」

「ああ。だが」


 リーゼロッテは言う。


「その前に、一度休憩にしよう」

「そうね。ずい分歩いたし、何か食べましょう」

「やった!……わたし、お水を汲んでくるね」


 わたしは一人で沢を下りて、小川へ水を汲みに向かう。

 緊張感が張り詰める道中で、食事はほっと一息つける時間だ。


 沢へ下りると、清涼な水が流れている。


「きれい。ここが危険な魔族領とは、思えないよね」


 裸足になって小川へ入る。


「ひゃ~! 冷たくて気持ちいい!」


 わたしは手に持った円筒形の容器を水に沈め、中を水で満たす。


「リーゼロッテとセタ王子の開発した魔法瓶、こんな形で役に立つなんて思ってなかったなぁ」


 水で一杯になった魔法瓶に蓋をし、セレーナたちの元へ戻ろうとする。



「誰だ!」


 完全に油断していた。


 男が、川辺に立っていた。

 赤い目をした、背の高い男。


(…………しまった!)


 魔族に見つかってしまった。


「貴様、ここで何をしている!?」


 男は、持っていた弓に矢をつがえ、こちらに狙いを定める。


 わたしは、咄嗟に腰の剣に手をかける。

 矢を避けて駆け寄り、倒す。……果たしてできるだろうか?


 一歩目を踏み出そうとしたそのとき――


「――なんだ、ネコ族か」


 魔族の男は、構えた弓を降ろした。


「…………?」


 何が起こったのか分からず、腰に手をやった姿勢のまま、わたしは固まる。


 男はフン、と鼻をならし、


「……こんなところをネコ族が一匹でうろついているとはな」


 うさぎでも見つけたかのような表情で、わたしを見る。


「ここはお前がいるような場所ではない。さっさと自分の村へ帰れ」


 わたしは身動きできず、ずっと固まっている。


「なんだ? 道にでも迷ったのか?」


 わたしはどうしたらいいか分からず、こく、と頷く。

 そうした方が良い気がしたからだ。


 すると男は言った。


「ついて来い」


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