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第五百七十九話 ザ・ゲート

 わたしが呪文を唱え終わると、伸ばした両手の間に、何かが生まれた。


 それは、ちいさな黒い球体。


「わっ」


 真っ黒な球だが、時折、電気が走ったみたいにバチッと弾ける音がする。


 何かの匂いがする。

 ええと、これって……オゾン臭?


「これ……、投げるのかな?」


 しかし、触ってもいいものだろうか?

 わたしは躊躇する。


 はじめピンポン玉くらいだった黒い球体が、だんだん大きくなる。

 成長してソフトボールくらいになり――やがて消える。


「えっ、これだけ?」


 失敗だろうか……?

 そう思った瞬間、セレーナが叫ぶ。


「あそこを見て!」


 視界の先……岩礁の上に、黒い球が現れていた。


「あんなところに……」


 岩礁の上に浮かぶ球体は、大きくなっていた。

 ゆっくりと下降しながら、時間と共に成長していく。

 もう、人の身長くらいあるだろうか。


「見ろ」


 リーゼロッテが言う。


「まだ育っているぞ」


 さらにどんどん膨らんでいく。


「どうなるのかしら……?」


 黒球は、みるみるうちに大きくなり、岩礁を呑み込んだ。


「すごい……!」


 わたしたちは驚嘆する。

 球体は海面に達し、なおも膨らみ続ける。


 旧極魔法、ザ・ゲート。

 やっぱりすごい魔法だ。


 だが……。


「…………っ!!」


 急激に、魔力が吸い取られる感覚が襲ってくる。

 と同時に、黒球の成長スピードが、ぐんと加速する。


 今、球体は、海の上に半分だけ見えている。

 その黒いドームは、さらに成長し続けていく。

 バチバチと音がして、ドームの周りに、黄色い稲妻が走る。


「なにか……まずい」


 リーゼロッテが呟く。


 わたしは戦慄する。

 いったいこれ、どこまで大きくなるの?

 術者である自分自身にも、まったくわからない。


「ミオン、魔法の中断を!」

「く……止まって!」


 わたしは、流れ出る魔力を止めようと、必死に抵抗する。

 だが、黒球に吸い取られているかのように、魔力の流出を止めることができない。


「もういい……もういいから」


 ドームの成長は止まらない。

 黒い球体の端は、わたしたちのいる岸壁に迫るほどになっている。


「どうしよう、誰か……誰かたすけて」


 しかし球体は止まらない。

 どんどん、目の前の海を呑み込んでいく。


 両手を突き出し、わたしは叫んだ。


「と、閉じてぇ!! お願い!!!」




   ◆




 突然、球体が消滅した。


 後に残ったのは、海にぽっかりと開いた穴。

 海が割れたみたいに、空間ができている。


 その穴に向かって、まわりの海水が一気に流れ込む。

 轟音と水しぶき。波が荒れ狂う。


 同時に、猛烈な風圧が背後から襲ってくる。

 周囲の空気が、黒球のあった場所へと吸い込まれ、凄まじい風となって吹き荒れる。

 わたしは海へ投げ出されそうになる。


「ミオン!」


 セレーナとリーゼロッテが、駆け寄ってわたしの身体を掴む。

 何とか踏ん張って、わたしは海に落ちるのを免れる。


 暴風と波……割れた海が閉じていく。

 わたしたちは三人で身体を支え合う。




  ◆




 やがて風は収まり、辺りは静けさを取り戻す。


 わたしは、その場にへたり込みそうになる。

 足ががくがくと震えている。

 セレーナとリーゼロッテが、わたしを支えながら言う。


「大丈夫か?」

「しっかりして」


 二人の声も、どこか震えている。


 風は収まったが、眼下の海はいまだうねりを残している。


「こ、怖かった……」


 震えながら海を見つめる。


「とんでもない魔法だったな……」


 リーゼロッテが言う。


 わたしは、ちゃんと立ち上がろうとするが、またへたり込んでしまう。

 それで気づく。腰が抜けそうになっているのだ。


 わたしは、言う。


「あんなのが発動して……もし、途中で止められなかったら……」


 自分で言っておいて、ぞっとする。

 あの球体、放っておいたら一体、どこまで成長するんだろう?


 にゃあ介がぽつり、と言う。


「ミオンの魔力の続く限り……だろうニャ」


 わたしは二人に助け起こされ、ようやく真っすぐ立ち上がる。

 標的にしていた岩礁なんて、跡形もなかった。


「これ……絶対に使っちゃいけない魔法だ」


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