第五十七話 閉会
ドラゴンの檻には、また鉄の蓋がはめられ、何人もの男たちによって慎重に運ばれていった。
まだ周りは騒然としている。
「わたしの髪飾り……後で返してもらえるかな?」
(あんなのどうでもいいニャろ)
「どうでもよくないよ。みんなで買った記念の品なんだから」
(そんなものかニャ)
にゃあ介とそんなやりとりをしていると、壇上のショウグリフ先生の元へ、一人の男性が何かを担いできた。
それはゲームなどで見る宝箱そのまんまだ。
「みなさん、静粛に!」
足元にその箱が置かれると、ショウグリフ先生は咳払いをしてから、こう言った。
「それでは賞品の授与を行います」
わたしは思わず、
「待ってましたっ」
と声を上げた。
◆
「これは魔法史大全のレプリカです」
ショウグリフ先生は、かがみ込んで、重そうな本を宝箱から取り出す。
どっちが縦でどっちが横かわからないほど分厚い本だった。
革の表紙の四隅に飾り鋲が取り付けられ、留め金で閉じられている。
リーゼロッテが進み出て、それを受け取る。
「こ、これが……」
リーゼロッテが息を飲む音が聞こえる。
「レプリカとはいえ、精巧にできています。貴重だから、大切にしてください」
「もちろん!」
リーゼロッテはその本を大切そうに懐に抱えた。
「さて、それから……」
先生が次に取り出したのは、一対のイヤリングだった。
青い宝石の周りを銀で縁取った、ちょっと古風な感じのするそのイヤリング。
セレーナに渡しながら先生は言った。
「魔力増強イヤリング……これも貴重なものです」
セレーナは、慎重にそれを受け取る。
「海のなみだとも呼ばれる、水竜の魔石からつくられています」
「ありがとうございます」
「身につけた者の魔力を、強めてくれる。おそらくは、三割以上……」
「三割! そんなに……」
セレーナは目を丸くしている。
「そしてさいごに」
ショウグリフ先生は、宝箱から、赤い鞘に収まった短剣を取り出した。
細かい飾り文様の入ったその柄は金色に輝きを放っている。
握りの中央に赤い宝石がはめ込まれていて、まるで大きな目のように見えた。
その瞳は静かにわたしを見つめている。
うやうやしくそれを受け取ったわたしは、先生に訊ねた。
「抜いてみても……?」
「うむ。気をつけてな」
すらり、と剣を抜くと、刀身は青白く光っている。
短いながら、スウッと伸びたその姿は、何だか胸がすくようだった。
切っ先から、何か不思議な力が立ち昇っているように感じる。
気のせいだろうか。
それともこれは魔力?
あるいは剣の持つ迫力のようなもの?
わたしはホレボレとその剣に魅入っていた。
「これがルミナスブレード……」
◆
コンテストが終わり、寮へと向かう帰り道。
わたしたち三人は、心地良い疲労感に包まれ、並木を歩いていた。
「これ、どうかしら?」
セレーナが訊く。
「とっても似合ってるよ、セレーナ!」
「ほんと? うれしい」
ウソじゃなかった。
耳に光るそのイヤリングは、セレーナにぴったりだった。
透き通るような宝石の青さが、彼女の魅力を引き立てている。
魔力だけじゃなくて、美しさも三割増しね。わたしはそう思った。
「コンテストは終わった」
不意にリーゼロッテが言った。
どこか物憂げな口調だった。
「そうね」
「ありがとね、二人とも。セレーナとリーゼロッテがいなかったら、絶対優勝なんて、無理だった」
「それを言うなら、あなたもよ。ミオン」
「えへへ、そうかな」
「…………」
リーゼロッテは何も言わない。
「どうしたの、リーゼロッテ」
「……これで」
ようやく口を開いたリーゼロッテだが、うつむき加減で、その声は小さかった。
「私はお役御免だな」
わたしは間髪入れずに言った。
「何つまんないこと言ってるの!」
「え?」
「お役御免なんてあるはずないでしょ。今だって一つ、魔法について気になっていることがあるの。明日も、授業後に待ってるからよろしくね!」
「いや……しかし、私は……」
「だめよ。一生お役御免になんてしない。わたしたちには、リーゼロッテが必要なの!」
ぽかんと口を開けるリーゼロッテ。
セレーナは、そんなリーゼロッテに微笑みかける。
「ですって。ミオンにつかまったのが、運の尽きだったみたいね」
「ちょっと、セレーナ、ひどーい。何その言いかたー」
「うふふ、ごめんなさい」
リーゼロッテは、わたしとセレーナを交互に見つめている。
「ま、そういうわけだから」
わたしは改めて言った。
「これからもよろしくね、リーゼロッテ!」
リーゼロッテは何も言わなかった。
だけど、わたしにはわかる。
だって、メガネの奥の目が、うれしそうに笑ってるもん!




