第五百七十八話 旧極魔法
「さて、とにかく……」
リーゼロッテが言う。
「できたんだな? 契約」
その表情はもうカラッとしている。
わたしは安堵する。
リーゼロッテも、異世界人であるわたしを受け入れてくれたみたい。
「うん。たぶんだけど」
わたしが答えると、
「そうか」
リーゼロッテはうなずく。
セレーナもうなずく。
わたしも、二人につられて、大きくうなずく。
セレーナが言う。
「……例によって、たしかめる方法は、ひとつね」
◆
「どんな魔法なんだろう」
わたしは高鳴る胸をおさえきれず、言う。
「旧極魔法か……。過去の言い伝えや文献などから、攻撃魔法なのは間違いないと思うが」
「でも、どうなるか、使ってみないとわからないわね」
わたしたちがそんな風に話していると、にゃあ介が口を開く。
「海岸へ移動したほうがよいのではニャいか?」
にゃあ介は、ぴょんとわたしの肩に飛び乗り、言う。
「ここでは危険かもしれニャいぞ」
その言葉に、
「ミルの言う通りだ」
とリーゼロッテが答える。
「何が起こるか分からない。周りに何もない方が、いい」
わたしはごくりと唾をのむ。
そうだ。旧極魔法にはどれほどの威力があるかわからない。
下手に放って、大火事なんかになったら大変だ。
にゃあ介の言う通り、海岸で試すべきだろう。
「じゃあ、海岸へ行こうか」
「ああ」
「そうね」
草原に吹く潮風は、少し温度が下がったようだ。
わたしたちは、草原から海へと移動する――旧極魔法を使うために。
◆
「ここら辺でどうかしら?」
セレーナが足を止めて言ったのは、ちょうど高い崖のようになった場所だった。
見晴らしがよく、遠くまでよく見える。
眼下には浅瀬がしばらく続き、その向こうには青い海がどこまでも広がっている。
これなら大丈夫だろう。わたしは言う。
「……うん、ここでいいと思う」
「あの岩礁を狙って放ってみるか?」
リーゼロッテが、海のほうを指し示す。
少し向こうの海面に、岩礁が突き出ている。
わたしはうなずいて、言う。
「それじゃあ、やってみるね」
わたしは、海に向かって深呼吸する。
水平線を眺めて、気持ちを落ち着ける。
標的の岩礁に向き直り、わたしは詠唱を始める。
「……天と地の理を穿ち、星を墜とす裁きよ」
不思議と、自然に詠唱の呪文が頭に浮かんでくる。
ここまで長い道のりだった。
ずい分、苦労したけれど……。
今こそ、その成果を。
「――我が魂、無に帰すを厭わず」
両手を海に向かって広げ、唱える。
「開け、滅界を告げる黒き扉――ザ・ゲート」