第五百七十七話 告白
「異世界から来た?!」
二人は異口同音に叫ぶ。
「それってつまり……」
セレーナが不思議そうに、訊ねる。
「どういうことかしら?」
そりゃそうだよね……。
わたしは思う。そんなこといきなり言われても、理解できないのは当たり前だ。
「ネコ族の国とは違うの?」
「……うん。わたし、ネコ族じゃないんだ」
「まあ!」
「よくわからない」
リーゼロッテが眼鏡に手をやる。
「説明してくれ」
わたしはうなずいて、なんとか説明しようと試みる。
「つまり、この世界とは別の世界から来たってことなんだけど……」
リーゼロッテは、
「遠い海の向こうの国に住んでいた、っていう話ではないのか?」
と、眉根を寄せる。
「ううん、海の向こうとかそういうんじゃなく」
わたしは続ける。
「こことは全然別の世界ってこと。……例えるなら、空の向こう、……よりもっと向こう?」
「空の向こう……?」
わたしは、空を見上げる。
「……あの月よりも、もっと遠く。あの星よりも、たぶんもっとずっと遠く……」
◆
わたしは、二人に語った。
この世界に来る前のこと。
そしてこの世界に転生してから今までのことを。
二人の目は、驚きで見開かれている。
「……本当なの?」
わたしは黙ってうなずく。
「ミル、たしかなのか?」
「……まあ、大体ミオンの言う通りニャ」
とうとう言ってしまった。今まで隠してきた、一番重要な秘密を。
わたしは不安で胸が苦しくなる。
これからどうなるんだろう。
二人は、またわたしと旅を続けてくれるのか?
それとも……
「セレーナ!?」
セレーナがわたしを抱き寄せる。
「……大変だったでしょう。よく今まで、頑張ってきたわね」
セレーナが言う。
「たったひとりで、見知らぬ世界へ投げ出されて。それって、とっても心細いことだわ」
「セレーナ……」
わたしは目の裏が熱くなる。
気味悪がられるんじゃないか、拒絶されるんじゃないか、と不安に思っていたが……慰めてくれるなんて思ってもなかった。
「ぐす……優しいなあセレーナは。でも、びっくりしたでしょ?」
「驚いたけれど……」
セレーナは言う。
「そうね……。だからといって、特に変わることはないわね」
「え」
わたしは虚を突かれる。
「……変わらない?」
「ええ。今までとなんにも変わらないわ」
「ど、どういうこと?」
「ネコ族だろうと、異世界人だろうと……」
微笑むセレーナ。
「ミオンはミオンだもの」
セレーナの笑顔は、じーんと胸に沁みる。
許しと労わりと、全てを受け入れてくれる温かさがあった。
不安な思いが解消され、笑顔が浮かんでくる。
「よかった……」
わたしたち、まだ友だちでいられる!
それから、わたしはリーゼロッテの顔を見る。
だが、リーゼロッテの表情は険しかった。
「り……?」
彼女は言った。
「気に入らない」
◆
「リーゼロッテ?」
「気に入らないな。大いに気に入らない」
リーゼロッテは不服そうに言う。
「セレーナの言う通り、ミオンがネコ族だろうと、異世界人だろうと、私は全然かまわない」
それから、
「それなのに、なぜ隠す? 私が言うか? 『異世界から来たのなら、お前とは友達になれない』」
リーゼロッテの口調は段々、怒気を帯びてくる。
「私たちの絆は、そんなチンケなものじゃない!」
「ご、ごめん……」
わたしは泣きそうになりながら、言う。
腕組みをしてわたしを睨んでいたリーゼロッテは、
「わかったなら、いい」
ようやく微笑みを見せ、言う。
「ただし……」
リーゼロッテは、続ける。
「これ以降、隠し事はなしだ」
そして、
「他に隠し事は、ないな?」
「ぎくっ」
「……あるのか?」
リーゼロッテの表情が、また険しくなる。
「じ、じつは……、お腹が空いてたから、お昼ごはんの干し肉を内緒でひと口だけ食べちゃって……」
「はぁ?」
ふー、とため息を吐くリーゼロッテ。
「ご、ごめーん! だって餓死する寸前だったから……!」
やれやれ、と首を振るリーゼロッテに、わたしは半泣きですがりつくのだった。
「ごめんてー! ほんのちょっと齧っただけぇー!」




