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第五百七十五話 旧極魔法の契約4

 わたしは、今まで自分が異世界の言葉を話していたことを、初めて意識した。


 この世界に来たとき、この世界の言語の、読み書きや発話が、自然にできるようになっていた。

 どういう仕組みか分からないが、きっと神さまが……。


「あっ」


 そんな思考に沈んでいたせいで、気づけば精霊の口が閉じられていた。


 ――まずい、帰っちゃう!


 わたしは咄嗟に叫んだ。


「契約させてください!」


 と日本語で。


 精霊の肩がぴくりと震えたのが分かった。それは驚いているようにも見えた。

 精霊の長い髪がゆらりと揺れ、紅と蒼の色が宿る瞳が、わたしを捕らえる。


 もう一度、勇気を振り絞って、日本語で言う。


「魔法を契約したいんです!」


 精霊が口を開く。


「この言葉を知っているとは……」


 深く響く声色だった。わたしは思わず背筋を伸ばす。


「貴女は……ここの住人ではないな?」


 わたしはためらう。が、正直に話すべきだと判断した。

 嘘をつけば、きっと見抜かれる。


「はい。日本から来ました」

「そう……」


 精霊はそう懐かしむように言って、


「……この言葉を使うのは、久しぶりのことだ」


 その声には、悠久を渡って来た存在の重みがあった。

 それから再び、わたしをじっと見据えて、


「契約したい……と?」


 精霊の瞳。その視線に飲み込まれそうだ。

 それでもわたしはうなずく。


「はい。魔法を契約させてください」

「契約してどうする……?」

「それはもちろん……」


 わたしが言いかけると、精霊は、


「我が魔法を用いるのは、過大だと思うが……」


 そう口にした口元は、冷たく笑っているように見えた。


「まあ、こんなところでこの言葉の通じる人間と出会うのも珍しい」


 そして精霊は、こう言った。


「契約したいというのなら、してやろう……ザ・ゲート」


 どくん、と心臓が脈打つ。


 ――ザ・ゲート。

 それが、わたしが今まで探し求めていた旧極魔法……。


 魔法陣が光り輝き――精霊は出てきたときと同じように、魔法陣の中へ姿を消した。



「や、やった?」


 わたしは震える拳を握って振り返る。


「契約できたかも!」


 不意に辺りの景色が視界に入ってくる。

 草原やその向こうにある海、鳥の声、頬に涼しい潮風。


 精霊が居たあいだは、周りがまったく目に入っていなかった。

 周囲の事物は、精霊に合わせて消えていたのではないかと思えてくる。

 それくらい存在感のある精霊だった。


 いや、そんなことより――


 ……あ……


 振り返って、気づく。

 そこには、不思議そうな目で、わたしを見つめる、セレーナとリーゼロッテが立っていた。


「ミオン、今の言葉は……?」


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