表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
575/598

第五百七十四話 旧極魔法の契約3

 わたしは魔法陣の前に立って、短剣を取り出す。

 セレーナがわたしにささやく。


「ミオン、気をつけて」


 リーゼロッテも少し心配そうに言う。


「ああ、ヒネック先生だって失敗したんだ。慎重に」


 わたしの胸の中は不安でいっぱいになる。


「でも……やるしかない」


 大きく深呼吸をして、もう一度覚悟を決める。


「大魔導士になる夢のため、それに魔王の侵攻を止めるため。……いくよ!」


 親指に剣先を当てる。

 ぷつり、と感触がして、血が染み出す。


 一滴の血が魔法陣に落ちる――




   ◆




 精霊はゆらりと姿を現した。


 その精霊は、大きくはない。

 黒髪に、紫の衣。


 わたしはハッと息を呑む。

 その美しさは妖しくも冷たく、近づけば魂さえ吸い寄せられそうだ。


 長く艶やかな黒髪が闇のように広がり、紫の衣は波打つように風に靡く。

 衣の隙間から覗く肌は淡く光を帯び、瞳には紅と蒼の揺らめきが宿る。


「ミオン、契約を」


 リーゼロッテがうながす。


「あ、あのぅ……」


 わたしが言いかけると、精霊が言葉を発する。



 ……ΣΔΓ……



「え?、え?」



 ……ΣΔΓ……БΧΣΓ……?!



 わたしは焦る。

 精霊の発している言葉が、まったくわからない。


「どうしよう、何言ってるか全然わかんない」


 振り返ってリーゼロッテに助けを求めるが、彼女も首を横に振る。


 わたしは精霊の方に向き直る。

 なんとかコミュニケーションを取ろうとするが、身振り手振りだけじゃ、どうにもならない。

 精霊の言葉が、だんだん怒気を帯びてくるのだけはわかった。


「怒ってる……」


 冷や汗が流れる。


「そりゃそうだよね、わざわざ呼び出しといて、一言も言葉が通じないんじゃ……」


「これは……まずいわね」


 セレーナが眉をひそめる。

 ヒネック先生の言っていた、意思疎通ができないって、こういうことか。


「ん? なんか、さっきまでと……」


 わたしは気づく。

 全くわからないのは変わらないのだが……何か、今までと感じが違う。

 リズムなのか、発音なのか……、精霊の発する言葉の感じが、不意に変わった気がした。


「違う言語ニャんだ」


 にゃあ介が言う。


 そうか。

 精霊はどうやら、いくつかの言語を切り替えながら話しているらしかった。


 また言葉の感じが変わる。

 わたしは、必死で耳を傾ける。


「うう、わかんない。わかんないよ」


 やはり全然わからない。わたしは頭を抱える。


 そのとき、一瞬、聞き覚えのある言語を聞いたような気がした。


「えっ、今の……」


 わたしは、ジェスチャーでなんとか伝えようとする。


「もう一回! 今の、もう一回お願いします!」


 わたしの反応を見て、精霊がもう一度口を開く。

 わたしは、目を閉じて、その言葉を聞く。


「やっぱり。わたし、この言葉知ってる」


 久しぶりに聞いた『日本語』は、何だかとてもやわらかい感じがした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ