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第五百六十八話 魔族領6

「何をして遊ぶ?」


 わたしはイルアに、


「なんでもいいよ。好きな遊びを言って」


 そう訊ねる。

 イルアは腕を組むと、


「ええと……」


 眉間に皺をよせる。

 小さくうなりながら、しばらく考え込む。


 それから腕を解いてこっちを向くと、言った。


「おまえ考えろ!」

「え?」


 わたしは戸惑う。


「わたしが考えるの?」

「ああ」


 イルアは口をとがらせる。


「だって僕はあんまり人と遊んだことがないんだ」


「そっか……」


 わたしはイルアがちょっと気の毒になる。

 友だちはいないって言ってたし、パパたちもイルアと遊んでくれないのかな?


「じゃあ、ちょっと待ってね。何かいいアイデアをひねり出すから……」


 わたしは腕を組んで考え込む。

 高原でできる遊びで、子供が喜びそうなもの……。


「えーと、うーんと……そうだ!」


 ぽんと手を叩いて、


「鬼ごっこにしよう!」

(考え込んだ割には、ありがちなアイデアが出てきたニャ)


 にゃあ介が突っ込む。


「鬼ごっこ?」

「わたしが追いかけるから、イルアは逃げるの!」


 わたしは鬼ごっこの説明をする。


「なんだ、人間ごっこのことか」

「人間ごっこ?」


 わたしが訊き返すと、


「魔族のあいだではそう呼んでいるんだろう。魔族の立場から見ると、そう呼ぶのが自然だ」


 とリーゼロッテ。

 うーん、なんだか複雑だ……。


 わたしはイルアに向かって言う。


「とにかく、つかまらないように、わたしから逃げてごらん」


 イルアは、


「僕をつかまえるだって? おまえが?」


 ちょっといじわるに笑って、


「やれるもんならやってみろ」


 と腕を大きく振りながら、草の上を駆けていく。

 あっという間にイルアの背中が遠くなる。


「あっ、まてー!」


 わたしは、青い草原を走るイルアを追いかけはじめる。

 魔族の棲む地なのに、なぜだかわたしの顔にも笑みが広がる。


 日は昇ったばかりだ。

 今日はいっぱい遊ぼう。




   ◆




「はは。魔族と言ってもやはり子供だな」


 リーゼロッテが、走り回るイルアとわたしを見ながら言う。


「ええ。あんなにはしゃいじゃって……、無邪気なものね」


 セレーナの声。


「どうしたどうした! はやくつかまえてみろ!」


 イルアは高原を縦横無尽に駆け回っている。

 朝露に濡れるアルテミア高原。イルアが走るたび、光の粒が舞う。


 わたしは肩で息をしながら、リーゼロッテとセレーナの近くに戻る。


「ちゃんと一緒に遊んであげて偉いわね、ミオン」

「ああ、ミオンは子供と遊ぶのがうまいな」


 二人がそう言って褒めてくれるが、


「どうしたミオン?」


 わたしは二人の言葉がほとんど耳に入っていない。


「……ミオン?」

「ふぬーっ! 全然つかまらない!」


 地団駄を踏みながら言う。

 それから、


「くっそー、絶対つかまえてやるー!」


 両手を挙げてまた駆け出すわたし。

 イルアはおかしそうに笑いながら逃げていく。


 背後でセレーナとリーゼロッテが、ぽつりと言う。


「子供ね……」

「ああ、子供だな……」


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