第五百六十六話 魔族領4
「僕と遊んでくれたら、アプシントスの生えてる場所、教えてやる」
魔族の子どもは、そんな条件を示して去っていった。
「明日、朝一番にここへ来る。約束だからな!」
そう言い残して。
「どう思う?」
わたしたちは、森の中で会議を開いている。
「今のうちに逃げた方がいいかもしれない」
「あの子が親を連れてきたら、厄介なことになるかもしれないわね」
「でも、嘘をついてる感じじゃなかったよね……きっと、言いつけないと思う。わたしたちのこと」
わたしは言う。
「やれやれ……相変わらずミオンは甘いニャ。お人好しというか……」
とにゃあ介。
「だが確かに、あんなにとっさに、しかも器用に嘘のつける年齢ではなさそうニャ」
「そうね。それなら、明日、一緒に遊んであげることにする? 約束どおり」
わたしはうなずく。
「うん。遊んであげよう。……魔族の子が何して遊ぶのか、よくわからないけど」
リーゼロッテもセレーナも賛成する。
「よし。ではそうしよう。そうと決まれば……」
そう言うと、リーゼロッテは毛布を持ち上げて、
「明日に備えて寝ようじゃないか」
「ええ、寝ましょう。明日のために」
「寝るニャ」
セレーナとにゃあ介も言う。
「どうしたの? ミオン。まだこの森で野宿するのが不満なの?」
「ううん」
わたしは答える。
「なんていうか……ちょっと混乱しちゃって」
「混乱?」
「……魔族が学園を襲撃したとき、わたし、心に決めたの。魔族を絶対許さないって」
わたしは話す。
「とっちめて後悔させてやるんだ。もう金輪際、人間に手は出さないって約束させるんだ」
拳を握って、言う。
「そう誓ったの」
それから拳を開いて、
「でも、さっきの子を見ると……」
こうつぶやく。
「なんだか、人間と変わらない」
そして続けた。
「見た目が違うだけ。むしろ、『僕と遊んで』なんて、カワイイくらい」
わたしは訊ねる。
「……ねえ、なんで人間と魔族は争わなくちゃならないのかな?」
すると、
「見た目が違うだけ、か……」
セレーナは言う。
「ミオンの疑問も、もっともだわ。人間と魔族が争う、根本的な理由って、何なのかしら」
「ふーむ」
とリーゼロッテは、
「はるか昔から、両者はいがみ合っている」
腕を組み、考え込んで、
「なぜだろうな。私にも理由はわからない。複雑な理由があるのか、案外単純な理由なのか」
こうつぶやく。
「本当の理由なんて、誰にもわからないのかも……ミルはわかるか?」
するとにゃあ介は、
「……さあニャ」
そうぶっきらぼうに言うと、
「ワガハイにもわかりかねるニャ。ネコの場合、縄張り争いで喧嘩はあるが、殺し合いになることはないニャ」
「うーん……」
わたしは毛布を引き寄せ、こう言った。
「理由が分からないのに、何で戦わなくちゃならないんだろう」
◆
翌朝、元気のいい子どもの声で起こされた。
「起きろー! 約束の時間だぞ」