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第五十五話 レッサー・ドラゴン

 1位チームは檻の前で尻込みしていた。

 わたしたちはドキドキしながら見守る。


 一人が動いた。

 赤毛の男の子が腰に差した剣を抜き、勇敢にも、檻に向かって一歩前進する。だが……


 ギロリとドラゴンに睨まれ、戦意喪失。

 そこから一歩も動けなくなった。


「2位チーム、スタート!」


 2位のチームもほとんど動けずにいる。

 が、一応作戦を考えていたらしく、ドラゴンに気づかれない位の速度で、ゆっくりと接近していた。

 しかしまるで、かたつむりみたいな速さだ。


 そうこうしているうちに時間は進み……

 わたしたちのスタート時刻がやってきた。……こなくていいのに。


「3位チーム、スタート!」


 無情にもショウグリフ先生の合図が響き渡る。

 わたしと、セレーナ、リーゼロッテは、おずおずと前へ進み始めた。


 ドラゴンが唸りだしたのはそのときだった。

 封じられた口輪から、漏れ聞こえる唸り声。レッサー・ドラゴンは、あきらかに興奮状態だった。


 急に檻から飛び出すと、わたしたちの方めがけて突進してくる。


「キャー! 何でわたしたちばっかり!」


 首と足に繋がれている鎖が伸びきって、動きは止まる。

 しかしドラゴンは低く唸ったまま、こちらを見ている。


 にゃあ介が唸り声に反応して、言う。


(ニャんだか、機嫌の悪いネコみたいだニャ)

「そんな可愛いもんじゃないよ……」


 ガシャンガシャンと音を立てるたびに、鎖が外れるんじゃないかとびくっとする。


「わたしたち、何か悪いことした?」

「すごい迫力だな」


「倒せるかしら?」


 セレーナが思案げに言う。


「何言ってんのセレーナ。ムリムリ!」


 わたしが言うと、


「確かにちょっと正面突破は難しそうだな」


 リーゼロッテも認める。


「ねえ、こうしたらどうかなあ」


 ふと思いついて、わたしは言う。


「セレーナとリーゼロッテがあいつを引きつけて、その隙にわたしが檻に入る」

「……えっ?」


「この中で一番足が速いのはわたしだし、優勝杯さえ取ってこられれば、それでいいんでしょ?」


「お、檻に入るの?」

「うーん、やっぱり危険かなあ」


 わたしはやっぱり考えなおすが、


(いや、いい作戦だ。それでいくニャ)


 と、にゃあ介が言い出す。


「でも……」


 よく考えたら、檻に入ったら、鎖の意味がない。

 あいつの爪、届いちゃうかも。


(どうやら、あのご機嫌ナナメのネコよりもミオン、お前のほうが速い。おそらくいける)


 お、おそらくって、どれくらい?


(8割がた、大丈夫だろう)


 8割……それって結構死ねるじゃん。


 わたしが泣き言を言うと、にゃあ介は、


(優勝したいんじゃニャいのか?)


 と突き放す。


「やるよ、やりますよ!」

「え?」

「仕方ない。セレーナ、リーゼロッテ、やっぱりその作戦でいこう」

「でも……大丈夫?」

「大丈夫、任せといて!」


 わたしは胸を叩いてみせる。

 その手が震えていたのは気付かれずに済んだだろうか。


 ひーん。

 とんでもないことになってしまった……。




   ◆




「じゃあ、いい?」


 わたしは言った。


「3で、セレーナとリーゼロッテは、左へ飛び出して、あいつの注意を引く。わたしは右から回り込んで、すばやく優勝杯をかっさらう」

「うん」

「わかった」


 わたしたちは、顔を寄せ合い、頷きあって、それから前を向いた。


 どこからか、声援が飛んでくる。


「おーい、ガンバレやー」


 あ、あれ、ガーリンさんの声。

 見に来てくれたんだ。


 空には太陽が輝き、風は少ない。


 ――いい天気。

 わたしは、目を閉じて深呼吸する。


 目を開け、わたしは言った。


「イチ、ニ、サン!」




 合図とともに、セレーナとリーゼロッテはドラゴンに向かって左側へと走り出す。

 そして、わたしは右へ。


 予定では、セレーナたちは大声を上げてドラゴンの気を引く手はずになっていた。


 しかし、その必要はなかった。

 セレーナたちが動き出すと同時に、ドラゴンは二人を追って向きを変えていた。

 

 まるではじめから狙いを定めていたみたいに。


「何なのよあいつ。最初っからわたしたちばかり睨んで!」


 わたしが文句を言うと、


(ふむ、どうも妙だニャ)


「何が?」


(たしかにヤツの注意は、こちらばかり向きすぎていた気がする。何故だろう?)


「わかんない。とにかく、優勝杯、とるなら、今しかない」


(うむ。そうだな……。では行け! 走れミオン!)




 わたしは檻目指して全力で走る。

 体力測定でみんなを驚かせた自慢の足。


 幸い、ドラゴンの注意はセレーナたち二人に向いている。


「いける!」


 太腿に力を入れると、周りの景色が一気に後ろへ流れる。


 わたしは檻に飛び込む。

 



 檻に入ると、暗がりの中に黄色く光る物があった。


 わたしはそこへ向かう。


「これが優勝杯?」


 そのとき、外から妙な音が聞こえ始めた。


「気づかれた?」


(いや、違う。あれは……)


 おそるおそる檻から顔を出すと、ドラゴンはまだセレーナとリーゼロッテが引きつけていた。

 音は、そのドラゴンの腹から鳴っているようだった。


 ゴロゴロと地の底から聞こえてくるような音。

 あれは一体何の音?


「……とにかく、はやく逃げよう」


 檻から離れようとしたそのとき、ガシャン、と音を立てて何かが落ちた。

 ドラゴンの口輪だった。


 全員が、はっと息を呑む。


 そして、ドラゴンの口に赤い炎が渦巻き始めた。


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