表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
554/597

第五百五十三話 宿場町での食事

 馬車は、休憩のために宿場町に停まった。


「王都まではあと一日、というところだな」


 御者が言う。


「ありがとう」


 わたしは礼を言って、馬車を降りる。



 宿場町の食堂は、繁盛していた。


 わたしたちは、席が空くのを待って、夕食を注文する。

 隣のテーブルでは、商人の隊商が食事をしている。


「魔王ってやっぱり強いのかな?」


 注文した料理が来ると、わたしは食べながら言う。

 リーゼロッテが、


「今まで戦ったどんな敵よりも強いだろうな」


 と答える。

 わたしはうなずいて、


「でも、やらなくちゃ」


 と肉を口に放り込む。


「……その話、本気なの?」


 リーズが食事の手を止めて、こちらを睨むように見つめながら訊ねる。


「本気だよ、もちろん」


 リーズは椅子に背をあずけると、ため息をつく。


「あきれた。魔族相手に小勢で乗り込んでいって、どうなるっていうのよ」


 リーズはもう一度ため息をつくと、ちらりとセレーナの方を見る。

 セレーナは、呟くように言う。


「……魔王の配下には、おそらくあの男がいるわ」


 セレーナの目は真剣だ。

 それもそうだろう。彼女の父親の仇である、黒衣の男を倒すのが、セレーナが家を出た理由なのだから。


「セレーナまで……」


 黙り込むリーズ。

 わたしは、ふとチコリを見る。


「チコリ、さっきから口数少ないけど、どうしたの?」


 わたしはチコリに訊ねる。

 チコリはうつむいて、黙々と料理を食べている。


(相変わらずミオンは鈍感ニャ)

「え?」


 わたしは、チコリの横顔をじっと見る。


 そうか。

 セレーナにずっとついて行きたいけれど、それが叶わないことも分かっている。


(自分が足手まといになるのが分かっているから、言えないのニャ)


 だから……、ずっと黙っているんだ。


「チコリ……」


 わたしは胸が締め付けられる。


「……私だって、出来ることなら、ついて行きたいわよ」


 リーズが口を尖らせて呟く。

 彼女も色々、考えているようだ。



「でも、王都に行くのも久しぶりだね」


 わたしはちょっと場を和ませようと、話を変える。

 

「セタ王子はもちろん、リーズもグランパレスの隼のもとへ帰らないといけないし、チコリだって、バートさんやユリナさんが待ってるもんね!」


 バートさんたちの話題を出すと、うつむいていたチコリも顔を上げた。

 少しだけ元気になったようだ。


 わたしたちは、王都に着いてからのことを話し合いながら、食事を進める。


 と、隣のテーブルからこんな話声が聞こえてくる。


「おい、聞いたか? あのうわさ」

「聞いたさ。学園都市ルミナスのことだろう?」


 思わず、ぴくり、と反応して聞き耳を立てる。


「なんでも、魔法学校が魔族に襲撃されたとか」

「ああ。壊滅状態だっていうじゃないか」


 他の皆も、食事の手を止めて、会話に耳を傾けている。


「怖い話だな……あんな内陸の街が襲われるなんて」

「ああ。こうなったら、どの街だって、安全かどうかわからないぜ」


 隣の商人たちは、料理を頬張りながら話を続ける。


「しかし、ルミナスは、もう再建は無理だろうなあ」

「そうだな。魔法学校の歴史も、これで終わりさ……」


「そんなことないもん!」


 わたしは、ガタッと椅子から立ち上がる。

 隣の商人たちが、びっくりした顔でこちらを見る。


「魔法学校は……魔法学校はなくならない!」


 大声を出すわたしを、


「もう行きましょう、ミオン」


 セレーナが制する。


 わたしはセレーナに手を引かれ、食堂を後にする。

 あっけにとられた商人たちが、ぽかんと口を開け、わたしたちを見送る。


 わたしたちは口数少なく、宿へ帰った。


 きっと、きっと、魔法学校はまた再建される。

 ガーリンさんや、先生たち、校長先生が、きっと立て直してくれる。


 わたしは、魔王を倒す。

 魔法学校を壊したやつらを、わたしは絶対に許さない。


「ぜったい、ぜったいだからね……」


 ぶつぶつ呟きながら、眠りについた。


 もう、暑さは遠のき始め、夜の空気は涼しい。

 明日は王都に着く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ