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第五百五十二話 ルミナスを後に

「お前ならば、旧極魔法を蘇らせることができるかもしれない」


 ヒネック先生は、わたしの目を見て言う。


「旧極魔法の復活は、私たちの悲願でもありましたから」


 エスノザ先生が、ヒネック先生の後ろから姿を見せる。


「先生……」

「ミオンさん……、旧極魔法をあなたたちに託します。私たちは、ここに残って学校の再建に努めます」


 ヒネック先生と、エスノザ先生。

 かつて先生たちも通った魔法学校。


 教師としての時間を含めれば、わたしたちよりも多くの時間をここで過ごしてきたんだ。

 ルミナスに思い入れがないはずがない。


「もうひとつある」


 ヒネック先生が言う。


「え?」


 ヒネック先生は懐から羊皮紙を取り出す。


「これは、旧極魔法の精霊を呼び出す魔法陣だ」

「!!!」


 わたしたちは息を呑む。


「長年の研究でたどり着いた魔法陣だが……」


 ヒネック先生は話す。


「うまくいくかどうかは、わからん」


 そしてこう続ける。


「私は呼び出そうとして、ひどい目にあった。意思疎通ができんのだ」


 そういえば……わたしは思い出す。

 いつだったか、ヒネック先生が休暇から帰ってきたとき、大怪我を負っていたことがあった。

 そうだ、あれは入学一年目だ。

 やはりヒネック先生はあのとき、旧極魔法の復活に挑戦していたのか。


「必要な素材が揃っていなかったからだと思います。すべて揃えれば、きっと……」

「私はどうなっても知らんぞ」


「ありがとうございます」


 わたしは頭を下げる。

 ヒネック先生は、フッと笑う。


「好きにしろ」


 何年も学校に通っていたが、先生のそんな笑顔を見たことは、ほとんどなかった。


「行くのか? お前さんたち」


 振り返ると、かちゃかちゃと鎧の音を立てながら、ガーリンさんが小走りでやってくる。


「学校はワシらに任せとけ。お前さんらが帰ってくるまでに、カンペキに直しておくわい」


 ガーリンさんはそう言って胸を叩くと、がはは、と笑う。


「うん。ありがとう、ガーリンさん、エスノザ先生、ヒネック先生」


 わたしは三人に向かって礼をする。


「わたし、きっと旧極魔法を覚えて……戻ってくるね!」


 魔王を倒すとは言わなかった。

 わざわざ先生たちに不用な心配させる必要もない。


 だけど、先生やガーリンさんが愛するこのルミナスを、再びこんな目に遭わせることはさせない。

 そのために、必要であるならば――。


 わたしは決心を胸にして、ルミナスの街を後にした。




   ◆


 


 わたしは歩きながら、ヒネック先生から受け取った、魔石:『ケット・シー』を見つめている。

 この魔石は、旧極魔法の復活に必要な素材のひとつ。

 迷宮都市ミレゥザで手に入れたものだ。


 それに――わたしは、布袋の中の丸められた羊皮紙に手をやる。

 ヒネック先生が、長年の研究の末に完成させた魔法陣。


「たしかに、魔王と戦うなら、旧極魔法が必要かも」


 わたしはつぶやく。

 リーゼロッテが言う。


「そもそも、なぜ魔族たちは魔法学校を狙った? 魔法は弱いのに」

「もしかして、目的は、旧極魔法の復活の阻止……とか?」

「ありうるかもしれない」


 リーゼロッテは考え込むように、顎へ手をやり、


「となると、どちらにせよ……」


 こう話す。


「向かうべきは、魔族領だな」

「そうね」


 セレーナがうなずく。


「旧極魔法に必要な素材。最後のひとつは、魔族領に自生するアプシントス……」


「二人とも、家へは帰らなくていいの?」


 わたしは訊ねる。


「学校があんなことになっちゃったし、親は心配するんじゃない?」


 するとリーゼロッテは、


「前も言ったが、うちは放任主義だ。手紙で報告だけすればいい」


 と言う。


「もう、自立すべき齢だしな」

「お母さまには悪いけれど、私も、今帰る気はないわ」


 セレーナも言う。


「そもそも、父の仇を取るまでは帰らない、と言ってあるのだし」

「そっか……」


「ミオンはいいのか?」

「ん? わたし? わたしはいいのいいの」


 わたしはケット・シーを布袋に大事にしまうと、腕を組む。


「魔族領っていっても、広いよね? どこを目指せばいいのかな? 魔族だっているし……」


 すると、リーゼロッテが口を開く。


「それについてなのだが、ひとつ思い当たることがある」

「なに? リーゼロッテ」


「前にも話したことがあるが、『魔族大歴』という本がある」


 リーゼロッテは話す。


「ヴィレンプという歴史家が著した本なのだが……」

「あっ、なんか覚えてる。たしか、その著者、混血クロースだったって言われてるんだよね」


「そうだ。魔族について詳しすぎるので、そう噂されている」


 それからリーゼロッテは、


「その魔族大歴なのだが……非常に不自然な箇所があったのだ」


 と、腕組みしながら話す。


「不自然っていうと?」

「前後のつながりがな……。具体的に言うと、私は、何枚か頁が削除されていると見ている」


 わたしとセレーナは目を見合わせる。


「削除された頁……」

「何が載っていたのかしら?」


「それだ」


 リーゼロッテは、うなずく。


「私が思うに、もしかすると、本当は地図が載っていたはずなのではないか、と思うのだが」

「はず、って?」


「初期の頃には載っていたが、削除されたのではないか」

「ていうことは……」


「初版本には載っている可能性がある」


 リーゼロッテは眼鏡をずり上げ、


「禁書扱いの本だが、王立図書館なら、所蔵があるのではないか」


 そして言った。


「間違っていたら、すまないが」


「それしか手掛かりがないのだから、調べてみるしかないわ」


 と、セレーナ。わたしは、元気よく言った。


「うん、行こう。――王都へ!」


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