第五百四十九話 脱出
「さあ、急いで!」
校庭にいた皆は、校舎へ避難を始める。
時間はなかった。
エイサさんによれば、敵はもう、目と鼻の先まで迫っている。
わたしはふらふらと歩く。
セレーナとリーゼロッテが、わたしの両側へやってきて、
「ミオン……」
「だいじょうぶか?」
と、わたしを支えてくれる。
リーズ、チコリ、セタ王子も校舎へと歩を向ける。
「生徒たちの避難を急いでください! 事態は一刻を争います!」
「校舎へ侵入される前に、生徒たちを地下道へ!」
先生たちの切迫した声が響く。
そんな中……、
「メティオ、何してるの! 早くこっちへ!」
リーズの声に振り返ると、メティオが校庭に立ったまま残っている。
メティオだけではない。ジュナとルーベンダイク、ジェイクの三人も残ったままだ。
「四人とも、はやく!」
リーズが言うと、ジェイクはこう答えた。
「ぼくたちは残るよ」
◆
「そんな!」
わたしは叫ぶ。
しかしジェイクは涼しい顔で言う。
「生徒たちが避難するまで、誰かが敵を食い止めなきゃならない」
「だめだよ! たった四人で……そんなの無茶だよ!」
わたしは断固として主張する。
しかし、イェルサの稲妻の面々は、すでに覚悟を決めたように、何も言わない。
「お願い! 逃げるなら、みんなで逃げよう」
ジェイクは微笑む。
「なまじ、長い間授業を受け持っちゃったからね」
ジュナも笑う。
「情が移っちゃったわよね~。生徒たちに」
「うむ。皆には、元気でいてほしいものでござる」
ルーベンダイクが髭を引っ張りながら、うなずく。
「そんなのだめだってば!」
何とか……何とかしないと。
「おねがい、メティオ。一緒に行こう?」
わたしはメティオへ懇願する。
彼女は、一言こう言った。
「……全部片付いたら、またその猫耳、さわらせて」
だめだ。
彼らの決心を、揺るがすことはできない。
胸が潰れそうな思いがした。
「メティオ! あんたが残るなら、わたしだって残る!」
そう言い出したのはリーズだった。
だが、
「リーズ。メティオ先生」
メティオが口に指を当て、首を振る。
「どうして!?」
「校長先生が言ったただろう? 大事なのは生徒だって」
リーズの声を遮り、ジェイクが言う。
「君はこの学校の生徒。ぼくらは先生だ」
「私だってSランク冒険者よ!」
食いさがるリーズに、ジェイクは、
「いいや、だめだ」
と首を振る。
「なぜ!?」
「ぼくたちはパーティだ。互いのことを知り尽くしていて、最高の連携を取ることができる」
ジェイクは、いつになく真剣な顔つきだ。
「いくらSランク冒険者でも、この極限状況に至っては……」
彼は、言った。
「足手まといになりかねない」
リーズが何か言い返そうとするが、
「言い争ってる暇はない」
ジェイクがぴしゃり、と言う。
「早く行くんだ」
それから、微笑んだ。
「……ぼくらにも先生らしいところ、見せさせておくれよ」
「ジェイク、メティオ、ジュナ、ルーベンダイク……」
わたしの声は震えている。
「死なないで」
「死ぬ気はないよ」
ジェイクは腕を組み、ニッと笑う。
「ぼくらはイェルサの稲妻だ」




