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第五百四十話 特別実習終了2

 何かの間違いかと思ったが、たしかに行列はセレーナの働く食堂へと続いている。


「どうなってるの?」


 わたしは行列を横目で見ながら、食堂へ向かう。


 入り口から、そーっと覗くと、セレーナが接客しているのが見えた。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 エプロン姿のセレーナが、テーブル席に腰かけている男性に、注文を聞いている。


「あ、あのぅ……」

「リザードの尻尾の香草焼きなんていかがですか?」


 セレーナの言葉に男性は、


「じゃ、じゃあそれ、お願いします」


 するとセレーナは、弾ける笑顔で、言う。


「ありがとうございます! わたしのおすすめメニューなんです!」


 そのスマイルを見た男性は、興奮気味に、


「に、二人前! 二人前お願いします」

「ほんとうに? 食べられますか?」


「もちろん! 僕、リザードの尻尾、大好きなんです!」

「うれしい! ありがとうございます!!」


 セレーナは嬉しそうに頭を下げて、厨房の方に注文を伝える。


 するとまわりの客から、


「俺も尻尾の香草焼き!」

「こっちにも!」


 と声が上がる。

 セレーナの顔が輝く。


「みなさん、ありがとうございます!」


 そのセレーナの姿を、皆が、ほんわかした顔で見つめている。


「……みんな完全に、セレーナ目当てだね」

(ギルドの酒場とは大違いだニャ)

「ぐぅ……わたしだって、ちょっとはお客さんを呼んでたもん……たぶん」


 セレーナの笑顔につられてか、客たちの表情も明るい。

 すると、セレーナがわたしに気付いて、大きく手を振った。


「あっ、ミオン! こっちこっち!」


 わたしはすこし気後れしながらも、食堂に入る。


「お、お邪魔します……」


 客たちの視線が一気にわたしに集まる。


「すごく繁盛してるね」

「そうなの。忙しくて、もうたいへん」


 セレーナはうれしそうだ。


「わたしが考案したメニューも、結構人気なの」

「へー」


 わたしは、周りの客を見てみる。

 ひとりの客の男が、ちょうど運ばれてきた料理を食べるところのようだ。


「ぼくはこのリザードのテールスープがお気に入りなんだ。これのために、毎日通ってるよ」


 男がスプーンを口に運ぶ。


「このスープを飲むと、寝なくても疲れないんだ。ふ、ふふ……、フ」


「あのテールスープには、魔法薬学で作り方を習った増強剤を使ってみたの」

「ど、ドーピング!」

「ミオンも食べてく?」

「や、やめとく!」


 せっかくだけど遠慮しておくわたし。


「ミオンはもう終わったの? 冒険者ギルドのお仕事」

「うん、終わっちゃった」

「そっか。楽しかった?」

「うん、とっても!」

「そう。よかった!」


 セレーナがテーブルを拭きながら言う。


「私も、このお仕事、とっても楽しいの。今日で終わりなのが、もったいないくらい」


 すると、その言葉を聞いた、店の中の客たちがざわつきはじめる。


「今日で終わりだって?」

「うそだろ」

「そんな! もうあの姿が見られないなんて……」

「僕のセレーナさま!」


 そして、わたしに冷たい視線が注がれるのだった。


「わ、わたしのせいじゃないのに」




   ◆




「みなさん、聞いてください」


 セレーナが店内の客に、すまなそうに言う。


「今日は、これでもうおしまいです」


 店中から、


「ええーっ」


 という声が上がる。


「ごめんなさい。材料がみーんな、なくなってしまったの」


 セレーナは、微笑んで、


「でも、みなさんのおかげで、たくさんのお客さんに来てもらえました。本当にありがとう」


 セレーナの言葉に、静かに拍手が始まる。


「こっちこそありがとう!」


 やがて、拍手はどんどん大きくなる。

 店中が一体となって、セレーナを祝福していた。


「なんか、アイドルのディナーショーみたい」


 わたしはその様子を、店内の脇で突っ立って見ている。



「ありがとう。ありがとう!」


 セレーナが感激して、何度もお礼を言う。

 コンサートのエンディングみたいな盛り上がりだ。


 なんだかよくわからないが、わたしも感動してきてしまった。

 わたしも拍手を送る。


「セレーナ、おつかれさま!」


 どの客も、皆、セレーナとの別れを惜しんでいる。泣いている客までいた。


 にゃあ介がぼそり、とつぶやく。


(明日からの売り上げが心配だニャ……)


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