第五十三話 リモートゴーレム※挿絵あり
(ふむ、なるほど)
にゃあ介が言う。
(教師相手に剣で戦わせる訳にはいかないからニャ。正しい選択かもしれん。だが……)
「これって、ヒネック先生に有利すぎない?」
(たしかに、生身の自分自身が戦う訳ではニャいからな)
「そんなのずるーい」
わたしは口を尖らせる。
「向こうに有利な点ばかりではないぞ」
と、リーゼロッテ。
「どゆこと?」
「リモートゴーレムは魔法を使うことができない」
そっか。
わたしは納得する。
ヒネック先生は得意の黒魔法で攻撃することはできないんだ。
「よーし、そういうことなら」
(どうする気ニャ?)
「魔法でぶっ飛ばす」
わたしは腕まくりして言う。
(まてミオン。周りをよく見ろ)
「え?」
にゃあ介に言われて、わたしはぐるりと周りを見回す。
「あ、観客の人たち……」
(そうだ。ミオンの魔力では、巻き込んでしまう)
そんな……。わたしは立ち止まる。
「魔法が使えない……。じゃあ、どうしろっていうの?」
「困ったな……」
リーゼロッテも困惑気味だ。
「剣で戦うしかないわね」
そう言うが早いか、セレーナはすでに背中の剣に手をやりながら飛び出していた。
「あっ、待ってセレーナ!」
わたしは慌てて後を追う。
セレーナは走りながら剣を抜く。
リモートゴーレムに向かって突進し、剣をゴーレムの身体に突き立てようとした。しかし――。
「うっ!?」
ビィン、と音がして剣がはじき返される。
ゴーレムの身体は硬く、剣を通さなかった。
セレーナの手から、剣がくるくると放物線を描いて飛ぶ。
しびれた手を押さえているセレーナ。
そこへゴーレムが襲いかかる。両腕をセレーナの頭部めがけて振り下ろす。
間一髪、横っ飛びによけるセレーナ。
先ほど口から泡を吹いて倒れていた生徒の姿が、わたしの頭に浮かぶ。
「ヒネック先生やめて!」
セレーナにあんなことしたら、いくら先生だって許さないんだから!
だが、ゴーレムは執拗にセレーナを追う。
ひどい。セレーナは丸腰だっていうのに。
とにかく、セレーナに剣を渡さなきゃ。
わたしは、地面に刺さったセレーナの剣へと走り寄り、引き抜く。
そのときにゃあ介の声がした。
(つなぎ目だ。土くれのつなぎ目を狙え)
ゴーレムがまたセレーナに向かって襲いかかる。
今度は横殴りにセレーナを攻撃しようとしている。それも思いっきり。
「セレーナ!」
わたしはセレーナに向かって剣を投げる。
セレーナが跳んだ。
「セレーナ、つなぎ目を狙って!」
空中で剣の柄を掴むと、そのままフィギュアスケートのように回転しながら、首の付け根めがけて横一文字に剣を振りぬいた。
着地と同時にゴーレムの首がとぶ。
セレーナの髪が、円を描くように広がる。
あまりの美しさに観客もみとれる。
椅子に座っていたヒネック先生が、びくり、と身体を震わせ、目を開ける。何か毒づいているようだ。
「すごいすごい。セレーナ!」
わたしは駆け寄っていって、セレーナを称える。
セレーナは言う。
「ミオンがいい所へ剣を投げてくれたおかげよ」
――そして、歓声があがる。




