第五百三十八話 売れ行き※挿絵あり
「ただいま~」
「おかえりなさい! ミオンさん」
わたしがギルドに入るとすぐ、リンコさんが、
「どうでした? 護衛任務は」
そう訊ねてくる。わたしは、
「はあ、まあ……」
と答える。
護衛任務のことは、あんまり思い出したくもなかった。
そんなことより、今は、チコリのお店の、まものポーチの売れ行きが気になる。
マシャーミンさんもやってきて、
「おう、どうだった?」
「ボギートードの魔石5個はしっかり取れました」
そう報告すると、
「そうか。ならよし」
マシャーミンさんはうなずいて、言う。
「さあさあ、仕事はそれだけじゃないぞ。今日もしっかり働いてくれ」
◆
午後になって仕事が終わると、真っ直ぐにチコリの雑貨屋へ向かう。
自分の職場で働きながらも、ずっとチコリのお店のことを考えていた。
雑貨屋に入ると、チコリがぽつんと立っている。
「どう、売れてる?」
「うーん……」
チコリは、なんともいえない表情を浮かべる。
「午前中にワーベアのポーチが一個売れたきり。……そもそもお客さんが来ないの」
「一個? そっか……」
わたしは、店内を見回す。
「こんなにいい商品なのになあ」
売れてないなんて……。陳列されたまものポーチは、かわいさも、インパクトも抜群だ。
だが、そもそもお客さんの目にとまらないことには、話にならない。
そのとき、お店のドアが開く音がした。
チコリは椅子から立ち上がって出迎える。
「いらっしゃいませ!……あっ」
入って来た人物を見て、チコリは驚く。
「先ほどの……」
お客は、三人組の女の子たち。
一人の子をよく見ると、ワーベアのポーチが手元にある。
どうやら、午前中に一個買っていった客というのは、この子のことらしい。
「ほら、見て見て! これこれ!」
その子が言うと、
「すごい! こんなに色々あるんだ!」
「かわいい! ほしい!」
と他の二人も声を上げる。
「友だちを連れて戻ってきてくれたんだよ!」
わたしがチコリに言うと、彼女は嬉しそうに笑う。
「いらっしゃいませ! どれもおすすめですよ!」
と接客に向かうチコリ。
わたしはその後ろ姿を見ながら、まものポーチの成功を確信するのだった。
◆
その後はすごかった。
友だちが友だちを呼び、まものポーチはあれよあれよと言う間に売れていった。
様子を見に来た、セレーナ、リーゼロッテ、リーズ、セタ王子、そしてわたしも、接客の手伝いをしたくらいだ。
そして意外と、触手だらけのモノアイ・クリーパーのポーチも人気がある。
「見て見て! これ、お腹を押すと、音が鳴るよ!」
代わる代わるお腹を押して、ゲッゲッという鳴き声を楽しむお客さんたち。
わたしは、
「気持ち悪いのって、意外と受けるんだなあ……」
と感心する。
「あはは、キモチわるーい!」
「ほんと、気持ち悪い! 最高!」
そんな様子を見て、わたしはぽつりとつぶやくのだった。
「……異世界にキモカワの概念が生まれてしまった」
気付けば、みんなで用意したまものポーチは全て売り切れていた。
「まものポーチください!」
「すみません。まものポーチは完売してしまいました」
「えー!? ほしかったのに……」
「あいすみません……」
お客さんに頭を下げるチコリを見て、わたしは、
「本日分は完売だけど、また入荷しますから!」
とフォローする。
「楽しみにしてます」
帰って行くお客さんを見送っていると、
「すごいね、チコリ!」
店に現れた背の高い女性。誰だろう、と思っていると、チコリが、
「あっ、店長」
と頭を下げる。
雑貨屋の店長さんだ。
「このお店に、こんなにお客さんが来たのは、初めてよ!」
店長さんは嬉しそうに言う。
「あなたたちの、まものポーチ以外にも、買っていってくださるお客さんも多い。……ありがとう!!」
店長さんがチコリの手を握る。
店長さんと握手を交わすチコリに、わたしは言う。
「やったね、チコリ!」




