第五百三十六話 初心者護衛任務2
「暗いな」
ケインが言う。
洞窟の中だから、当然だ。そう思ったが、口にするのはやめた。
かわりに、わたしは左手を上げて炎の魔法を灯す。
「明るいでしょ? こうやって、炎の魔法を飛ばさずに固定すると、たいまつの役目を果たすんだよ」
ケインがちょっと興味を示したようなので、
「手のひらを上へ向けて、炎の魔法を唱える。炎が、その場に留まるように、強くイメージしてね」
わたしの説明を聞いて、ケインは手のひらを上へ向け、
「ファイア!」
と唱える。
だが、生まれた炎は固定されず、飛んで行って消えてしまった。
「ふん」
ケインは鼻を鳴らして歩き出す。
「ちょっと! ねえ、一回やっただけであきらめちゃ、だめだよ」
「あきらめてない。僕は攻撃魔法専門なんだ。こんな軟弱な使い方は、お前に任せる」
そう言っていばりながら、ふんぞり返って歩くケインに、
(あいつだけ、ここに置いて帰るっていうのはどうニャ?)
とにゃあ介。
「…………」
その提案が、ちょっと魅力的に聞こえてしまう、わたしだった。
◆
ケインはどんどん歩いていく。
「おい、カエルはどこだ?」
「ボギートードは地下二階だよ。地下一階へ降りる階段が奥にあるから……」
言いかけたとき、ケインが叫び声を上げた。
「わああっ」
ケインの目の前を魔物が横切ったようだった。
「で、出たな! 凶悪なモンスターめ!」
慌ててケインが剣を抜く。
「油断して近づいた者を、じわじわと痛めつけ、なぶり殺しにする残忍な魔物!」
わたしは言う。
「それただのスライムだよ」
「……最強の暗殺スライムめ!」
スライムはケインの前で、ぷるると揺れている。
「どうする? にゃあ介」
(さすがに、スライムくらいなら自分で倒せるニャろ)
「そうかな。……がんばれ、ケイン!」
「ちっ、役に立たないネコ娘め」
ケインは舌打ちして、
「くるなら来い! 洞窟の主。この僕が相手だ!」
なんかいつのまにか、ただのスライムが洞窟の主になってる。
わたしは炎を高く掲げて、スライムの様子を見やすいようにしてやる。
ケインはしばらくハアハアと荒い呼吸を繰り返していたが、意を決したようにスライムに斬りかかる。
「でりゃあ!」
ぴょい、と剣を避けるスライム。
そして、ケインに向かって、ぽいん、と飛び掛かる。
「かはっ」
スライムがケインの脇腹に体当たり。
「ぐ、ぐうぅっ!」
ケインは脇腹を押さえ、うずくまる。
「あ、あばらが……」
と悶絶するケイン。
わたしは呆れて言うのだった。
「おれてない、おれてない」




