第五百三十五話 初心者護衛任務1
「なんでお前がここにいる?」
怪訝な顔でケインが訊く。
「わ、わたし、冒険者ギルドで働いてるの。だから……」
わたしが説明すると、ケインは苦い顔をして、
「お前が?……ふん、ギルドも堕ちたもんだな」
とぼやく。
「け、ケインはなんでここにいるの? 特別実習は?」
すると、ケインはめんどくさそうに、
「僕の店のクソ店主が、どうしてもカエルの魔石がいるって言うんだ。だから仕方なくさ」
と話す。
「そうなんだ……。ケインはどこで働いてるの?」
「どうしてそんなこと、お前に教えなくちゃならないんだ?」
ケインは、口をとがらせる。
「そんなことより、僕はお前なんかに案内を頼んだ覚えはないぞ。まったく、こんな素人をよこすなんて……」
ぶつぶつ言いながら、
「ひとりで行く」
一人で洞窟へ入ろうとするケインに、
「ひとりで行って洞窟内で迷子になったらどうするの? 誰も助けに来ないよ」
わたしの言葉に、ケインは眉間に皺を寄せて少し考えると、
「じゃあ早くしろ。僕は忙しいんだ」
さっさと歩き出すケイン。
「あ、待ってよ」
わたしは慌てて後を追った。
◆
「いい天気だね」
「…………」
「ワイナツムの洞窟へ行くのは初めて?」
「…………」
「もうすぐ洞窟だよ」
「…………」
「ボギートードの魔石5個って、結構多いね」
「ちょっと静かにしろ」
そんな会話(?)を交わしながら、わたしたちは高台へと登っていく。
この高台は、ルミナスが一望できる。
カラフルな街並み、それを取り囲む自然。非常に景観がいい。
しかしケインは、景色なんか全然見ていないみたいだった。
やがてワイナツムの洞窟へとたどり着く。
「ここか」
急斜面になった岩壁に、洞窟がぽっかりと口を開けている。
その暗い穴の周りには蔦がからみ、結構な時間の流れを感じさせる。
「この洞窟はね、地下三階にちょっとヤバいのがいるけど、地下二階までなら……」
わたしの説明が終わらないうちに、
「行くぞ」
ケインは言う。
「あ、うん。ケイン、武器は何? 隊形はどうする?」
一応、戦闘になった時のための段取りを考えていると、
「そんなのどうでもいいだろ」
「で、でも……」
「敵が出たら、ぶっ倒す。それだけさ」
「護衛するのは、わたしなんだけどなあ……」
「何か言ったか?」
「な、何も……」
このわがままなケインを、怪我させないように護らなくちゃならないのか。
思ったより大変そうだなあ……。
「ほら、さっさとついてこいよ」
ケインはずんずん洞窟の中へと入って行く。
「わあ、ちょっと待って!」
(先が思いやられるニャ……)