第五百二十九話 休日の朝
今日は特別実習が始まってから、初めての休日。
わたしは、寮のベッドで毛布にくるまっている。
「あ~っ」
大きく伸びをして、
「そろそろ起きるか……」
そう言うと、
「もう何十分も前から、同じことを言ってるニャ」
と、にゃあ介から突っ込みが入る。
「もう少しだけ……」
「今日はセレーナたちと出掛ける約束をしてたんじゃニャいのか?」
にゃあ介がペロペロと体を舐めて毛づくろいをしながら言う。
わたしはムクリ、と身体を起こす。
「そうだった」
休日とはいえ、異世界に来てまで、二度寝三度寝してる場合じゃない。
わたしはようやくベッドから降りる。
「セレーナはもう起きてるかな……わあ!」
鏡を見て、
「髪の毛、バクハツしてるぅ!」
「ワガハイが毛づくろいしてやろうか?」
「結構です」
わたしは、あたふたと髪型を直しながら談話室へ行く。
「おはよう、ミオン」
やはりセレーナは起きていて、優雅にお茶を飲んでいる。
「む~」
セレーナは、身なりも髪型も完璧だ。
「ちょっとセレーナ、ずるいよ!」
「な、なにが?」
戸惑うセレーナに、
「いや、なんでもない。わたしにもお茶ちょうだい」
そう言って隣に座る。すると、
「ミオン、そろそろ行かないと。今日は皆で昼食をする約束でしょ」
セレーナが立ち上がる。
「あれ? もうそんな時間なの?」
わたしは慌ててごくごくとお茶を優雅に一気飲みし、わたわたとセレーナを追いかけるのだった。
(やれやれニャ)
◆
寮を出ると、外は気持ちのいい快晴。
「いい天気だね」
わたしが言うと、セレーナも空を見上げてうなずく。
「うん。今日は本当にいいお天気」
「こんな日に部屋に閉じこもっていては、もったいないわ」
「でも、みんなと出かける約束がなかったら、わたしは連日の仕事の疲れでずっと寝てたかも……いやはや、社会人を尊敬するよ」
わたしはふわぁ~、とあくびをする。
「もう。ミオンたら、ときどき若者らしくないことを言うんだから。ほら、寝ぐせがついているわ」
セレーナがわたしのはねた髪を手で押さえる。
「ありがと」
わたしは隣で歩くセレーナをじーっと見る。
相変わらず完璧にセットされた縦ロールヘアだ。
「…………」
わたしはセレーナの縦ロールを一束つまんでみる。
「?」
不可思議そうな顔をするセレーナ。
手を放すと、髪の毛がしゅるるるーっと元に戻る。
「おお~」
「ちょっとミオン、人の髪の毛で遊ばないで」
「あはは、ごめん……。でも、もう一回だけ……」
わたしが手を伸ばすと、セレーナは早足になる。
「ダメよ」
「わたしの髪でも遊んでいいから……」
セレーナはくすくすと笑う。
「ミオンの寝ぐせの髪の毛で遊びたくないわ」
走り出すセレーナ。
「待ってよ~」
「ダメだったら」
そんなことをしていると、もう待ち合わせ場所で、リーゼロッテたちがこちらを見ている。
「ちょっとあんた! セレーナに何するの!?」
リーズが怒鳴り声を上げる。
「ミオン! セレーナさまをいじめちゃダメ!」
チコリもぷんすか怒っている。
「わーごめんごめん」
と、あやまるが、
「斬る」
「ちょ、ちょっとリーズ。剣を抜かないで!」
「焼く!」
「チコリ! 魔法唱えないでぇ!」
わたしは二人から逃げ回る。
リーゼロッテとセレーナが、呆れたようにそれを見守る。
そんな風に休日が始まったのだった。




