第五十二話 第二の試練
校庭に用意された数百もある観客席を生徒たちが埋め尽くしている。
彼らは異様なまでに盛り上がっていた。
観客席の前には、わたしたちより先に第一の試練を突破したらしいチームがいて、今行われている戦いを青ざめた表情で見つめている。
戦っているのは男子三人のチームで、皆、手に剣を握っている。
問題はその相手だった。
それを見た瞬間、とてつもない違和感に襲われた。
形がいびつで、とてもこの世のものとは思えない。
デザインのセンスの狂った何者かが、土くれや石を寄せ集めて、無理やり作り上げたみたいに見えた。
あんな生き物、いるはずない。それともこの世界にはあんなの、普通にいるの?
それは、どうみても意志があるように自由に動いているのだった。
「何アレ……すごく変……」
(ふむ……生気を感じない。どうやら、人間でも魔物でもないようだニャ)
「え? 魔物じゃないの?」
「違うと思うぞ」
わたしの言葉にリーゼロッテが反応する。
「どの文献にも、あんな魔物は載っていない。強いて言えば、ゴーレム種に近いが……それにしては小さいし、不格好すぎる」
「じゃ、じゃあ」
わたしは訊いた。
「何だって言うの……一体、アレは」
そこへ、背後から男性の声がした。
「リモートゴーレムさ」
振り返ると、立っていたのは、白魔法のエスノザ先生だった。
「エスノザ先生……。リモートゴーレムって何ですの?」
セレーナが訊ねると、先生は、
「精神遠隔魔法って、聞いたことないかな?」
するとリーゼロッテが言う。
「精神遠隔……あっ、ブラストスピリット!」
「そうだ。よく知っているな」
エスノザ先生がリーゼロッテをほめる。
「だが、だとしたら、操作者は一体誰なんだ――」
「待って待って、何のこと? わたしにも教えてよ」
わたしはたまらずに割り込む。
「あ、ああ、すまない。ブラストスピリットというのは、黒魔法の一種なんだが」
リーゼロッテは言う。
「術者の精神をとばして、作り物のゴーレムを操ることができるのだ」
「そう。ただし、その間、術者は動くことができないがな」
と、エスノザ先生。
「つまりは、術者は完全にゴーレムに乗り移ってしまうのだ」
「なぜ、あんな見た目に?」
「まあ、デザインはちょっとね……」
エスノザ先生はポリポリと頭を掻く。
「ちょっとどころじゃないと思うんですけど」
なるほど、そういうことか。
わたしはそこで、リーゼロッテと同じ疑問を持つ。
「操作しているのは、一体誰?」
エスノザ先生は、こう答えた。
「明らかじゃないかね。これは第二の試練。当然、操作しているのは、我々教師陣の一人。そして……」
「ブラストスピリットは黒魔術の一種……」
「と、いうことは?」
「……ヒネック先生?」
わたしは慌てて周りに視線を走らせた。
すると、観客席の前に、ひとつ大きな黒い椅子が置かれているのが目に入った。
ヒネック先生は完全に目を閉じて、背もたれに深く沈み込んでいる。
まるで眠ってでもいるかのようだ。
と、次の瞬間、観客から悲鳴が上がった。
見ると、校庭のど真ん中で、男の子が倒れている。
ヒネック先生のゴーレムに、生徒が殴られ、失神したのだ。
「やれやれ、また怪我人がでた。ちょっとやりすぎだな……」
エスノザ先生は、そしてわたしたちに言った。
「……さあ、行きなさい。勝てば100ポイント。キミたちの番は近い。行って戦ってくるんだ」
わたしの目からは、倒れた生徒の口から吹き出ている泡が、焼き付いて離れなかった。




