第五百二十八話 リーズの職場
「最後はリーズの様子を見に行こう」
わたしは商業地区へ戻り、武器屋へと向かう。
「正直、いちばん心配なんだよね」
にゃあ介を肩に乗せ、そう話す。
「二人とも喧嘩っ早いとこあるからなぁ……リーズ、ハロルドさんとうまくやってるかな?」
「行って確かめればいいニャ」
わたしは、リーズとハロルドさんが職場で一緒に働いている様子を想像してみる。
「……ま、どっちも根は優しいから、大丈夫だよ!」
「自分に言い聞かせてるニャ」
にゃあ介とそんな風に話しながら、商店街を歩く。
「ここだここだ。おっ?」
ハロルドさんの武器屋は、商店街でも大きな武器屋だ。
そのお店の前に人だかりがしていた。
「繁盛しているみたいだね……あれ?」
「なんか変だニャ」
人はいるけれど、店へ出入りしている様子がない。
どうも皆、遠巻きに店を見守っているようだ。
「……なんか、いやな予感がする」
一抹の不安を感じながら武器屋の近くまで来ると、怒号が聞こえてきた。
◆
「ふざけるな!」
「ふざけているのはどっちかしら!」
はっきりと、言い合いをしているのが聞こえてくる。
「なにごと!?」
わたしは慌てて駆けていく。
人だかりを掻き分け、店の前へ出ると、二人が激しくにらみ合っていた。
「この……小娘が!」
「なによ、身体がでかけりゃ偉いっていうの?!」
ハロルドさんとリーズが口汚く罵り合っている。
しかもよく見ると、リーズは手に剣を握りしめているではないか!
いつもの大剣ではなく、細身の長剣だ。店の売り物だろうか。
いやいや、そんなことより。
「まさかこんなことになってるなんて……!」
わたしは思わず止めに入る。
「ま、まあまあ」
「どけ、そいつを殺す」
「どきなさい。この剣の切れ味を確かめるわ」
二人ともおだやかじゃない。
「落ち着いて!」
わたしはびくびくしながら、言う。
二人とも、にらみ合ったまま動かない。
冷や汗をかきながら、訊く。
「とりあえず、なんで揉めてるか教えて」
すると、リーズが口を開く。
「私は、この剣が目玉商品だっていうから、一番目立つところに陳列したほうがいいって言ったの!」
リーズは手にしている長剣を振りながら、
「入り口正面の壁よ。なのに、この分からずやの店長が聞かないのよ!」
リーズはハロルドさんを睨みつける。
「その武器はあそこだ!」
ハロルドさんは、店の奥の売り場を指さす。
「剣、槍、弓! バラバラに置いたら、客が混乱するだろうが!」
「そんなところに置いても、誰も買ってくれないわ!」
「何ぃ?!」
「ちょ、ちょっとちょっと! ふたりとも、落ち着いて……わあ!」
ついに二人のバトルが始まる。
「どりゃああぁあ!」
「ぬおおお!」
ギイイィン! とお互いの剣がぶつかり合う。
「はああぁあっ!」
「うおおぉぉっ!」
キンキンキン! と商店街に剣閃の音が響き渡る。
さすがはリーズだ。ハロルドさんの攻撃を細剣で見事に捌いている。
周りの見物客が、その様子を見て興奮気味に目を輝かせる。
「すげえ! あの細い剣で、店長の剣を受け止めてるぞ!?」
「あんな小さい女の子が……あの剣、そんなに強いのか!?」
Sランク冒険者であるリーズのことを知らない客が、その目を輝かせている。
「俺、あの剣買うぜ!」
「俺も、一本買うぞ! いや、家族用に四本くれ!」
二人、三人と見物客がお金を握り締め、店内へと走っていく。
「もう、ふたりとも、ストップ! ストップ!」
店の前で剣戟を繰り広げる二人と、二人のあいだでわたわたと焦るわたしをよそに、
「意図したものかどうかわからニャいが、売上げは期待できそうニャ」
と呟くにゃあ介だった。




