表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
528/595

第五百二十七話 リーゼロッテとセタ王子の職場

 わたしは雑貨店を後にすると、リーゼロッテたちの働く、工業地区へと足を運んだ。


「つぎはリーゼロッテとセタ王子のところだね。ふたりともサボってなければいいけど」

(それはあっちの台詞ニャ……)


 赤い屋根々々の連なる工業地区。

 商業地区とは違って、金属を叩く音や、溶鉱炉の蒸気の上がる音、ゴシゴシと何かを削る音なんかが響いている。


「ここは鍛冶屋。ここはガラス工房……」


 わたしはきょろきょろとあたりを見渡す。

 この地区には色々なお店が並んでいるが、あまり来たことがないので、どうも不案内だ。


(あれだニャ)


 にゃあ介の声に、わたしは足を止める。

 二、三軒先に、大きな看板のかかった建物がある。

 見上げると看板には、『エルドリッチ魔法具工房』の文字。


「あ、ほんとだ」


 魔法具工房……いったいどんなお店なんだろう?

 見る限り、なんだか工房というより、倉庫かガレージみたいな作りで、入口の扉は開けっ放し。呼び鈴もない。


 わたしは首を伸ばして奥を覗く。

 工房の中は、所狭しと何かの部品や工具が積まれている。


「なんだかすごいなあ。マッドサイエンティストの研究室みたい」


 その工具の山の中に、二人はいた。


「セタ王子、その部品はそこに置いておいてくれ」


 リーゼロッテが、セタ王子に言う。

 王子は、重そうな箱を運びながら言う。


「はい! わかりました!」


 なんか王子の威厳、ゼロだな……。


(まあ、今に始まったことではニャい)


 リーゼロッテは、コテやらワイヤーやらを手に、なにか部品を組み立てているようだ。


「何を作ってるの?」


 わたしが声をかけると、リーゼロッテは顔を上げて、こちらを見る。


「ミオン!」


 セタ王子も、


「ミオンさん!」


 とおどろく。


「えへへ、様子を見に来たんだ。……ていうか、ふたりとも汗だくだね」


 リーゼロッテは微笑んで、


「魔法具作りは、思ったより体力勝負でな」


 こう言う。


「これは、『保温壺』だ」

「えっ! 保温壺?」


 わたしは驚く。


「聞いたことない。そんなの作れるの?」

「工房長が、話の分かる人でな。アイデアがあるなら、好きな物を作ってみていい、と言われたんだ」

「すっごーい。さすがリーゼロッテ!」


 わたしが言うと、


「いや、これはほとんどセタ王子のアイデアが元になっている」

「セタ王子が? へえ! すごいじゃん、セタ王子!」


 セタ王子は、照れくさそうに、


「部分的に魔石を使っていて、中に入れた液体の温度を一定に保つ壺なんです」


 そう説明してくれる。


「こ、これぞ本物の、『魔法瓶』!」

「魔法瓶? その呼び方も悪くないな」


 リーゼロッテは眼鏡を直して作りかけの容器を見る。


「たいしたものだろう? 私も驚いた」


 セタ王子は赤くなりながら、


「まだ試作段階ですが……」


 と頭を掻く。


「へえ~っ!」


 わたしは、感心して言う。


「すごいすごい! 完成したら、ぜひ見せてね!」


 そして王子の背中を叩く……いろんな意味をこめて。


「セタ王子、しっかりね!」


 セタ王子は、ケホケホと咳をしながらも、


「はい。やりがいのある職場でよかったです」


 と、なんだか幸せそうな顔をしているのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ