第五百二十六話 チコリの職場
チコリの働く雑貨屋は、商業地区の中でも、比較的大きな通りに面している。
いつだったか、みんなで買い物に来たことがあるお店だ。
木製の扉を開けると、取り付けられた鈴の音が、「ちりりん」と鳴る。
店の中では、チコリが羽箒を持って掃除をしている。
チコリは、店内にところ狭しと飾られている雑貨類の埃を、ぱたくたとはたきながら、
「いらっしゃいませ!」
と振り返る。
「きたよ~、チコリ」
「あ! ミオン!」
チコリの顔が、ぱっと明るくなる。
「どう? お店はうまくいってる?」
「うん。今、ようやくひと段落したところ」
店内に、いまお客さんはいないようだ。
「そっか。丁度いいときに来たみたいだね」
わたしはうなずいて、
「いいお店だよね」
と店内を見回す。
落ち着いた雰囲気、温かみのある壁紙、それに、アロマを焚いているのだろうか? ほのかに良い香りが漂う。
棚には様々な商品が並んでいて、目移りしてしまうほどだ。
カバンや小物入れなどの布製品、ぬいぐるみや人形、文房具などが、たくさんある棚に丁寧に並べられている。
手作りの陶器やアンティーク調のアクセサリー、季節の雑貨コーナーもある。
カウンター横の小さな棚にはカラフルなキャンドル。どれも可愛い小物たちだが、お店のこだわりを感じる。
チコリは、
「どれもいい物ばかりなの」
と、誇らしげに言う。
「そうだね。わあ、このポーチ、すっごくかわいい!」
わたしが目を留めたポーチは、黄色い小さなバッグの中に、財布や小物入れなどが一式そろっているものだ。
「あ、それいいよね! 買う? ミオン」
わたしは値段を確認して、
「け、けっこう値が張るんだね」
と躊躇する。
「本当にいい物だよ。絶対おススメ!」
「は、はは。どうしようかな……」
わたしは困ってもじもじする。
「今、ちょっと持ち合わせが……」
そのとき「ちりりん」という鈴の音がする。
振り返ると、チコリと同い年くらいの、二人組の少女たちがお店に入ってくる。
「いらっしゃいませ!」
チコリは元気にそう言うと、
「何かお探しですか?」
と接客をはじめる。
少女たちは、雑貨類を見て、
「わあ、これ見て! きれいな砂時計!」
「ほんと! すごくすてき!」
目を輝かせる二人に、チコリは笑みをこぼす。
「その砂時計は、特別な砂を使っていて、温度で色が変わるの」
「ええっ、すごい!」
「見てみたい!」
チコリは女の子たちに商品の説明をはじめる。
「しっかり店員してるなあ」
わたしはそうつぶやきながら、チコリにばれないように、黄色いポーチをそーっと棚に戻すのだった。