第五百二十三話 ギルドの雑務
へろへろになって寮へ帰ったわたしは、談話室のソファに倒れ込む。
「わー、目を瞑ると、グロい映像が浮かんでくる~」
(やれやれニャ)
「お疲れね、ミオン」
しばらくして、セレーナも寮へ帰ってきた。
「まーね……。セレーナのほうはどうだった?」
「素晴らしかったわ。食堂のオーナーは優しい人だし、客はそこまで多くないけれど、素敵な雰囲気のお店なの」
「へぇ~。いいなあ」
「料理もとっても美味しいのよ。ミオンも食べにくるといいわ。おススメはリザードの尻尾の香草焼きね」
「うぷっ……ま、また今度!」
◆
そして翌日。
「今日は解体じゃなければいいな……」
重い足取りで冒険者ギルドへ向かう。
ギルドへ着くと、受付でマシャーミンさんが待ち構えていた。
「昨日はごくろうさん。さっそくだが……」
ぎくり、とするわたしに、
「今日は別の雑務がある」
とマシャーミンさん。
「雑務?」
首を傾げるわたしに、マシャーミンさんは言う。
「くわしくは、リンコに訊いてくれ。おいリンコ、頼む」
それだけ言ってマシャーミンさんは、受付を後にする。なんだか忙しそうだ。
「はい、任せてください!」
リンコさんが、受付カウンターにぴょこりと現れる。
その両手に、大量の書類を抱えている。
「ミオンさんにお願いしたいのは、依頼の仕分けです」
「え?……と、いうと?」
「ギルドに寄せられた、魔物の討伐依頼なんかを、難易度によってランクごとに振り分けてもらいたいんです」
リンコさんは両手いっぱいの羊皮紙に目をやって、言う。
「……ずい分溜まっちゃって、たいへん」
「依頼をランクごとに振り分け……?」
「そう。例えばこの『倉庫に巣食ったスライムの討伐依頼』は、簡単なのでFランクですね」
「そんなこと、わたしなんかがやっていいんですか?」
するとリンコさんは、
「大体で分けてもらえれば。後で私と副ギルド長が見て、直しますから」
そう言った。
なんにしろ、魔物の解体よりはマシなはずだ。わたしはこう答える。
「わ、わかりました。やってみます!」
「ありがとうございます。では、あちらのテーブルでお願いします」
◆
「へえ、こんな依頼もあるんだね」
わたしは酒場の一角にあるテーブルに、依頼書を広げ、仕分け作業をしている。
「キノコの採集、十人前以上。できるだけ大量に。採れただけ買い取る。種類は問わない。だって」
魔物の討伐依頼以外にも、薬草の採取、素材の調達など、さまざまな依頼がある。
解体よりマシどころか、この仕事、非常に面白い。
(そんな悠長にやっていていいのか? 成績かかってるんニャろ)
「そうだったそうだった」
わたしは持っていた羊皮紙を手元の箱に入れる。
「これは、Eランクだよね」
合っているのかどうか分からないが、思った通り仕分けてみるしかない。とにかくスピードが大事だ。
薬草やキノコなどの採取依頼は、F~Dランクに仕分ける。
魔物討伐は、魔物の強さによって、Aランクまでの全ランクに仕分けていく。
「オークの肉調達……Dランク」
「毒消しの薬草採取……Eランク」
「おっ、レッドリザード討伐。……これは、Cランク」
そう口に出しながら仕分けする。
「見て見て、畑に湧いたウェアラットの駆除依頼だって。にゃあ介得意じゃない? やってみたら?」
(ワガハイをネズミの駆除に使うんじゃニャい)
「これはFランクかなあ」
そんな感じで、わたしはひたすら仕分けをつづけた。